2011年03月20日

公共建築物を木造にするためのポイント


地震などの災害発生のたびに、公共建築物が避難先に指定されます。
したがって公共建築物は、あらゆる災害から絶対に安全でなければならない。
それには、まず立地が大切。
今回のような10メートルを超す津波が来ても安全で、河川の堤防が破損しても心配がなく、山崩れ・土砂災害の懸念のない場所であることが求められます。

そして建築物は、これまた耐震強度は3等級以上で、直下型の震度7の烈震がきても、部分的に亀裂が入ったり、天井が落ちたりせず、余震が続いても安心して室内で避難が続けられる構造強度を持っていなければなりません。
それには、基準法の1.75倍の性能を持つ4等級、あるいは2.0倍の性能を持つ5等級を、新たに設けることも検討すべき・・・。
もちろん、必要な防火性能も持っていなければなりません。
そして、今度の避難で明らかになったように、外気温度がマイナスになった時でも、灯油を焚かずに室温18℃以上が確保出来るものでなければなりません。
つまり耐震性や防火性だけでなく、本当の省エネ性が求められています。

昨年の10月、農林省・国交省は 『公共建築物における木材利用促進に関する基本方針』 を発表しました。
これは、国土や環境の保全、温暖化防止などのために、国産材を学校・老人ホームおよび保育所・病院および診療所・体育館および水泳場・図書館および公民館・公営住宅・地方公共団体の事務所および庁舎・公務員宿舎などに積極的に採用してゆくというもの。
そして、3階建の木造学校建築や3000平方メートルを超える建築物の耐火構造の義務化規定も、順次必要な見直しを行ってゆく、 という画期的な内容を持っています。
3月5日付のこの欄で紹介した 「国産材による2×4部材の開発」 も、この基本方針の一環としてなされたもの。
そして3月10日付で紹介したように、今年の建築・建材展では、今までにない木質構造の展示が多く見られました。

この建築・建材展の一環として「低炭素型社会における木造建築の可能性」 というシンポジウムが3月10日にベルサール九段の大講堂で開催されました。
参加案内と申込先が日経BPだったので、当然日経の主催で、公共建築における国産材採用の問題が中心に議論されるものと早とちりし、喜び勇んで参加。東北関東大震災の前日のこと。
ところが、主催者は日経ではなく、 OMソーラー。
このため内容は、パッシブ住宅 (パッシブハウスではありません) というホップの効いていないビールのようで、キレもなければコクもないもの。
本当にがっかりしました。
こんな時こそ、多少のカネをとってもよいから、日経が主催して堂々としたシンポジウムを開催してほしかった。

その中で唯一、今日的なテーマに触れたのが東大大学院農学生命科学研の稲山正弘准教授の 「国産材活用と木質構造」。
同氏は、現しの木質構造の構造設計では著名。
いわゆる意匠を重視した木構造の構造開発がほとんどで、庶民を対象にした より安全性を求められる公共建築物の実績は少ない。

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会場の全景と、稲山氏が構造設計し、MOK-MSDが設計管理した 「北沢建築の工場内部」

写真上の木材の現し建築は、たしかに美しい。
結婚式場か何かだったら、大好評を博するでしょう。
しかし、庶民が避難する体育館の天井がこれで、余震で揺れてギイギイと鳴ったら、人々は安心出来るでしょうか。
つまり、ハレの日の舞台としてはこの種の現し建築がふさわしいが、安心が一番の避難場所の建築としては、決して嬉しくない。
したがって、こうした建築物を前提に 「公共建築物の木造化」 を語ることは、正しくない。
稲山氏の視点とは別の視点で、考えねばならない。

戸建て住宅では、一般的に言ってRC造や鉄骨造よりも木造の方がコストは安い。
ところが、学校建築となるとスパンが6メートルではなく8メートルとか10メートルのものが求められる。
これに対して、稲山氏は今までの梁の現し建築しか知らないから、木造の方がRC造や鉄骨造よりもはるかに高くなると断言した。
この断言は、納得できかねた。
たしかに国産材ということに限定すれば、長尺ものの入手は困難。
現しの集成材で処理をしようと思えば、なかなか8メートルとか10メートルの集成材が入手しにくいのは事実。

なにしろ、現しで使う場合は、45分の準耐火の場合は、集成梁の両面、下部とも35ミリの燃え代を計算して厚くてセイの大きなものを用意せねばならない。
これが1時間準耐火となると、燃え代は各45ミリ。
構造計算よりも幅で90ミリ、セイで45ミリ大きな梁が必要。
こうした大型の梁は、特注品となるから割高に。
まして、地場材ということだと、長尺の集成材をつくれる工場が地場にない。
したがって、価格的にも、実際的にも、ほとんどの地域で採用することが不可能。
しかし、セイの高い平行弦トラスやTJIを採用すれば、それほど価格を上げずに8メートルとか10メートル、あるいはそれ以上の梁材が入手出来る。

先の 「国産材による2×4部材の開発」 のセミナーで、「国産材では長尺の206材が簡単に入手出来ないので、学校建築などに使う平行弦トラスは、輸入材を使った場合に比べて2倍近い高価なものにならざるを得ない」 との報告があった。
しかし、上下材のフランジに、国産のカラマツなどのLVLを使う場合は、そんなに高価にならず、十分に対応出来る。

学校建築の場合は、木軸で計画することがそもそも間違っている。
耐震性を高めるために、昔のように柱同寸のスジカイをタスキ掛けに入れ、さらに控え壁をとることはやっておれない。
プラットフォーム工法こそが耐震性や工事の作業面で最適だということが世界的に立証されている。
国産材にこだわるのなら、とりあえずはカラマツ、ヒノキで3メートルの206のスタッド材を製材する。
スギの場合は曲げモーメントにバラつきがあるので、地域ごとに選別をきちんとする。
そのことによって、まず壁材として採用する。

そして2階床用の横架材。
部分的に現しの集成材を、意匠として採用することは正しい。
しかし世界の例に倣って、原則として平行弦トラスかTJIのエンジニアウッドの採用が本命。
ところが、このエンジニアウッドの工場がほとんどの地場にはない。
したがって、とりあえずは他県から取り寄せることも、場合によっては一部長尺もののランバーに関しては、段階的に輸入材の使用を認める柔軟な姿勢が必要。
鉄骨を使うよりは、CO2の排出ということを考えると、輸入材を部分的に採用することは決して間違ってはいない。

そして、屋根はネールトラスが本命。
これを上回る技術は、現在のところ世界で開発されていない。
もちろん価格問題を無視すれば、現しの集成材を使うことも可能。
それよりも、それぞれの広域エリア内に、共用のトラス工場を設置してゆくことこそ肝要。

そして、体育館。
多くのドーム建築をはじめとして、集成材や丸太による建築物がすでに3桁以上発表されてきている。
別に珍しいものではない。
稲山氏のように奇をてらわなければ、耐火被覆の鉄骨構造に対して、集成材で十二分に対抗出来ることが証明されている。
そして、木材の表面に露呈しないホームコネクターなどの各種の接合金物が開発されている。
このドーム建築から木軸工法が追放されたように、校舎建築でもいつまでも木軸にこだわっている場合ではない。

公共建築物において進めなければならない本質は、木材のエンジニアウッド化。
それと、ツーバィフォー工法で4階建が可能になったことに示されている防火性能の確保。
このポイントを忘れた森林政策、林業政策、建築政策であってはならない。
耐震性で安心出来、そして外気温がマイナスになっても、暖房を入れなくても室温が18℃を下回ることがない断熱性能と熱回収率90%の換気システムの導入。
この熱回収換気システムを完全に機能化させるには、最小限の太陽光発電による蓄電システムが不可欠。
そうすれば、避難場所は停電しても灯油がなくても、十二分に快適で健康的。
この木造建築物こそ、鉄骨造やRC造では絶対に出来なかった性能。
その性能の中で、未来の子供たちを育てるのです。
未来と、いざという時のための投資。

私どもがやらなければならない公共建築物の木造化とは、そんな性能と機能を備えたものでなければならない。
このことを、わたし一人が叫んでいても始まらない。
ぜひ皆さんも声高に唱えていただきたい、とお願い致します。



posted by uno at 05:54| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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