2011年04月05日

成城学園に出現した驚きの《木製PC版工法》 (訂正編)


コンクリート製のPC版(プレキャスト・コンクリート版)工法は、広く知られている。
公団住宅とか公営住宅などの中層住宅のほとんどは、このプレキャスト・コンクリート版工法。
このPC版の中層住宅は、地震に対してもなかなかの性能を発揮。
今から47年前の新潟地震で、県営住宅が液化現象によって横倒しになったことはある。
しかし、その後も日本各地で地震に遭遇しているが、全壊したという話は聞いていない。
断熱性能とか結露、カビの発生面ではいろいろ問題が。
だが、耐震性とコスト面では当時の建設省が進めた技術政策の中では画期的なもの。
しかしこれからは、古いPC版に外断熱を施し、サッシを高性能のものに変えるか、最低でも真空ガラスに変えて行く断熱改修工事が必要。

さて、こうしたプレキャスト・コンクリートに対して、ヨーロッパで注目を集めてきているのが《木製PC版工法》と呼ぶべきもの。
今年の2月15日付のブログ 「森からのエネルギー創出  オーストリアシンポジウム」 に、今から5年前にオーストリアのKLMが、「スウェーデンでクロスラミナーという木製PC版を使った5階建のマンションを建てたという情報を得た」 と書いた。
KLM社は、ヨーロッパでは防火認定を取っていて、フランスでは6階建て、イタリアでは10階建ての実績を積んでいる。
何しろ、この木製のPC版は、長さ16.5m、幅2.95m、厚さ0.5mまでが可能というから、コンクリート・プレキャスト版は足元にも及ばない。
それほどの優れものだが、日本ではまだ特認は取っておらず、一般的に構造体としては使えない。

ところが、同じオーストリアのTHOMA社製の 「ピアウッド」 という木製PC版は、自然の住まい社が数年前に壁倍率7倍で特認を取得済み。
壁倍率が7倍ですぞ・・・。
この会社の本社は長野にあって、今までは最初のプランニングから引き渡しまで、全て責任設計・施工でやってきている。
このため、せいぜい年に1〜2棟しか受注することが出来ず、実績棟数は20棟程度。
ところが成城学園の現場では、初めて建て方のみを担当。
つまりフレーミングだけを請け負った。
Y邸は総2階建で、延べ床面積は176m2 (53.2坪) 。 2階は総勾配天井。
したがって気積は多く、2階へ上がるとやたらと家が大きく感じ、80坪もあるのではないかと錯覚。
この家を、専門の大工さん2人、手元4人、それとクレーン車の操縦士1人で、4日間で建て方を完成させた。

ピアウッド.JPG

このピアウッドの特徴は、接着剤で積層の版を作るのではなく、写真のように特殊なダボ材で板を縫い合わせてゆく。
ダボ間隔は、外周部は密で内側は離れている。構造計算で板が歪曲しないように入れられる。
写真を見ると特許のダボが板に密着しており、その性能の良さが実感出来る。
そして、接着剤で圧着させないから板と板の間には若干だが空気層が出来る。
このため、熱伝導率は0.13Wではなく、0.098Wという。
壁厚はY邸の場合は17センチ。
したがって、ウッドの積層版のU値は約0.53W。
これは20センチのコンクリート厚の外側に6.5センチ厚の断熱材を覆った熱貫流率に匹敵。
通常仕様は、この積層板の外側に10センチのソフトボード(木の繊維)を施工してモルタル仕上げ。
さらに内側には2センチ厚の土壁が施工され、ポリエチレンパイプをその土壁に埋設して壁暖房を行う。
床暖房は直接熱が伝わるので不快。輻射暖房の壁断熱を採用しているという気配り。
これで、壁のU値は0.2Wとなる。
ただし、Y邸は2.1センチのソフトボードと2.3センチの通気層で、U値は0.4W程度。

P1040402.JPG

P1040387.JPG

内壁・外壁とも17センチ厚で、加圧注入土台を跨ぐように施工され、40センチ間隔に0.8X16センチのネジ釘で固定されている。
基礎と土台の緊結のために、標準仕様ではホールダン金物が信じられないほど入れられている。
このほかに、4隅には2.7センチの通しのボルトで床と天井積層版までを結んでいる。
これだと、津波に遭遇しても簡単に破壊しない。
建て方が終わると、屋根から外壁まですっぽりシートで覆い、雨から積層版を守っている。

P1040398.JPG

階段室などは、1、2階を通し壁で造られているのが嬉しい。
枠組壁工法でも、パネル化するため往々にして1階と2階の壁を別々に組む例が多見される。
1間以上は通し壁であってほしい。

P1040397.JPG

2階床厚は21.2センチの積層版。
この上に吸音材が施工され、標準仕様では無垢のフロアー仕上げ。

P1040390.JPG

P1040391.JPG

セイの大きな棟木板を挟むようにして両側から屋根積層版が取り付けられてゆく。
この木口の断面に工夫があり、屋根積層版が開くことはない。
屋根積層版の厚さは19センチ。
標準仕様だとこの外側に14〜20センチの断熱材が施工される。

P1040395.JPG

屋根積層版と壁積層版との接合部も、特殊な工夫がなされている。
それにしても、接合部の収まりの綺麗さには脱帽。

P1040404.JPG

これが積層版の姿図。
延べ79枚の積層版から成っている。
版と版のジョイント部分にも工夫が凝らされていて完全に一体化。
そして、念のために金物で補強される。

この積層版は、全てオーストリアの工場で加工され、日本へ船便で送られる。
積層版の工場渡し価格は、平均200ユーロ/m2。
これに運搬費、通関費、日本国内搬送費、組み立て指導費などが25%かかる。
したがってプランや省エネ性能値にもよるが、坪価格は100万円以上を覚悟すべき。
しかし、将来国産材で製品化され、マーケットが拡大すれば面白い展開が可能かもしれない。
つまり、プレキャスト・コンクリート版と対等に戦える日がくるかもしれない。

このY邸の場合は、どこまでも躯体のみの発注。
したがって、開口部の性能とか換気・空調計画は別の設計事務所の管轄。
このため、Y邸のQ値は何Wと表現することが出来ない。

自然の住まい社の標準的なQ値は何Wであるかを、マテー・ペーターさんに確かめた。
「0.9W以下であることは間違いない。しかし、パッシブハウス研究所のQ値至上主義の考えには疑問がある」 と強い口調で主張し、 「冷却時間こそがポイント」 と強調。
この冷却期間と言うのは、外気が−10℃の時の室温20℃が、内部発熱だけで何時間で0℃になるかという期間のこと。
なるほどと肯かせられた。
つまり、ガラス繊維系などの軽い断熱材で得られたQ値だと、熱容量が少ないために冷めやすい。
熱容量の大きい17センチ以上の積層版を使っている壁と一緒には出来ない。
そして外側には10センチの木の繊維を施工し、内壁には2センチの土壁を塗っている。
Q値ではパッシブハウス研究所が認めたものと同一でも、熱容量が大きく異なるため冷却期間では大きな差が生じてくる。

これは大変な正論。
そして、パッシブハウス論者以上に徹底的に拘っている姿勢には、頭が下がった。
日本の、上辺だけのエコ論者とは鍛え方が違う。
口先だけの中野博氏は論外で、私の友人ナカジマホームの松岡氏でも桁違いで比較にならない。
世の中には、すごい人がいるもの・・・。
ペーターさんと交わした津波議論は、別の機会に紹介したい。



posted by uno at 19:47| Comment(0) | 木質構造と林業・加工業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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