2011年05月30日

数十億円の裏金づくりの秘策  その取材力に脱帽


森 功著「泥のカネ  裏金王・水谷功と権力者の饗宴」(文芸春秋1500円+税)

P1040632.JPG

あんなにも恥ずかしいパフォーマンスは見たことがない。

東日本大震災の現場を訪れた温家宝中国主席と李明博韓国大統領を福島県へ集めて、菅首相は地元産の野菜や果物を一緒に食べて見せた。
日本の政治家が国内向けに演じる手垢がついたヨレヨレのパフォーマンス。
それを、中韓のトップにやらせた菅首相のダサいセンス。
李大統領の輝かしい経歴と温主席の履歴を読んだ者にとっては、菅さんの軽率さが気になる。
世界の消費者に、日本の食材の安全性をアピールする絶好のチャンス。
日本がどのような頻度と測定方法で食材の放射線測定を行っているか。
その測定の結果はこの通りで、その数値を見て温家宝主席と李大統領が納得しているショットが欲しかった。

あのパフォーマンスを見て、世界中の何人が、「福島産は安全だ」 と感じたろうか。
おそらく一人もいなかったろう。
そんな誰も見向いてくれない田舎芝居を演じるために、わざわざ福島を訪れた菅総理が、往復の新幹線の中で読んだのがこの著。
共同通信は、「重要な外交日程の間でも、政権批判を強めている小沢氏のことが頭から離れないようだ」 と書いているが、これには書いた記者の知能程度が疑われる。

この著は、すべての政治家と経済人が読むに値する内容を持っている。
とくに、特捜部を批判するために、不必要に小沢一郎を庇ってきた週間朝日の編集部は、全員が襟を正して読んでほしい。
この著を読めば、最近の新聞やテレビの記者の取材がどれほど表皮的であるかが良く分かる。
関係者をシラミツブシに当たり、生の声の裏付けを一つ一つ取って回り、核心に迫ることが如何に大切であるか。
その基本を忘れた手抜き記事が、あまりにも氾濫しすぎる。
それに比べて、この著者の執念の取材力、取材魂には感動する。
誰もが描き切れなかった水谷功氏に密着して、本音を引き出している姿勢には脱帽。
それほどの弩迫力がある。

三重県の北部、木曽川沿いにある桑名市。
昔から焼き蛤で有名だが、鋳物の街としても有名だった。
その桑名に、水谷建材店が先代の手によって戦前に設立された。
といっても個人経営の域を出ず、土木工事における飯場の仕切りや建材を売っていたに過ぎない。それが1959年の伊勢湾台風の時に、材木か何かで大儲けをして、水谷建設へと組織変更を行った。
先代には4人の男と4人の娘がいた。
兄弟姉妹が多い土建屋や住宅屋は、跡目争いが激しい。
水谷功はその4男として生まれた。3人の兄を抜いて4男坊がトップに辿りつくには、それなりの骨肉の争いに勝ちぬいた結果だが、その詳細は省略。

名もない孫請け業者に過ぎなかった水谷建設がサブコンへ脱皮出来たのは、石川・手取川に作られた日本でも最大級のロックフィルダムで準大手の前田建設が赤字に転落する危機を懸命に支えたから。
それを恩と感じた前田建設は、以来相見積りも取らず水谷一本ヤリとなり、コンビでいろんな仕事を受注してゆく。
1970年台に前田建設が福井の火力発電2基受注し、敦賀の新型転換原型炉「ふげん」を取り、志賀原発の一号機、二号機も前田が受注した。それを支えたのが水谷功だった。
もっとも両社が原発の仕事をとれたのは、東電をはじめとした電力会社や政財官界の裏社会に通じる白川司郎というフィクサーに食い込んだからだという説も紹介している。
水谷功は自家用のヘリコプターで、よく白川を福井へ案内していたという。

この前田・水谷コンビが、今度は東電の福島原発へ顔を出す。
当時の東電・荒木社長は、佐藤・福島知事へプルサーマル計画に対する協力を要請した。
ところが、東電の福島原発では事故が連発。
98年10月には第一原発で定期点検中だった二号機の格納容器内でビニールシートが燃え、五号機タービンの屋内ヒーターから発煙。12月には低レベル放射性廃棄物入りドラム缶から出火。
99年の1月には第二原発で廃棄物処理建屋内の空気予熱器付近から出火。次は定期検査中の一号機タービン建屋内で溶剤が焼けた。
きわめつきが02年の9月。原子炉における格納容器気密試験のデータ偽装の発覚。このため、一時は10基とも運転停止を余儀なくされた。
運転再開が出来なければ、東電は一日に1億円の損害が出ると言われていた。
そしてデータの改竄事件を機に、原発容認派と見られていた佐藤知事は操業再開反対派に転じ、プルサーマル計画の白紙撤回を求めた。 
という背景の中での福島進出。

原発ではタービンの復水を冷やすため、海水が使われる。その海水には砂利が含まれており、その砂利が残土として山積みされていた。この砂利は塩分を含んでいるのでコンクリート工事用には不向き。引き取り手がない。
この残土処理を00年から05年にかけて60億円で前田建設に発注され、前田が数億円の手数料をとって水谷建設に一切の実務を引き渡した。
水谷建設は40キロ北の小高町に建設する「小高研修所」の盛り土用として60万m3の残土を運び出した。そして、水谷建設は先の白川氏のペーパーカンパニーに3億5000万円を支払っている。

何かが契機となって、佐藤知事は汚職事件で摘発された。
その詳細は省略する。
筆者は、白川氏の絡みで前田・水谷コンビが福島原発に関わりを持つようになった動機を、取材先の発言をベースにいろいろ推測している。
しかし、これという確証を得られずにいる。
この件だけでも、なかなかミステリアス。

この水谷建設。
実は裏金を数十億円もつくったという。
どうしてそんなことが可能であったか ?!
それは、土木用中古重機の売買を通じてのみ可能だったという。
土木用の重機は、自動車と異なり税法上、新品と中古では大きな差がある。
購入して一年間経過し、アワーメーター2000時間使用した重機は中古品として扱われる。
そして、重機を扱う土木建設業者は、資本金5000万円未満の中小企業に限って特別な減価償却が税法上で認められている。
それは、半期で30%という高い減価償却。
つまり、前期と後期で、60%という信じられないほどの減価償却率。

例えば、1億円でコマツからブルドーザーを買ったとする。
国内のダム建設などで1年半使うと、減価償却によって帳簿価格は4000万円になる。
それには、会社の資本金を5000万円以下に抑えておく必要がある。
水谷建設の資本金が長年4800万円に抑えられていた理由が納得できる。
そして、同社では自前の整備工場を持っていた。
オペレーターやドライバーの研修センターまで完備していた。
そこで、機械を丁寧に扱うコツを教え、問題があれば直ぐに修繕する。
このため、業界では他社の中古重機は「韓国の現代製」と低く見られていたが、水谷建設の重機は 「ヤナセのベンツ」と呼ばれていた。
2000年に入り、中近東のオイルマネーによる開発ブームで、日本の中古重機は飛ぶように売れた。
わけても新品と変わらない水谷の中古重機は、8000万円から9000万円の値が付いた。
水谷建設は常時、重機を1000台は抱えていた。

つまり、水谷建設は簿価4000万円で重機を重機ブローカーへ売る。
そして、4000万円だけを会社の口座へ振り込ませる。
しかし、9000万円で売れるので、ブローカーの手数料を引いたカネは、裏金として重機ブローカーがプールし、管理してくれる約束。
しかし、決済はほとんどがドル。
このドルを、日本円に変えて日本へ持ち込むには香港を利用するしかない。
つまり、大量の円を現金で調達出来るのは、香港しかない。
そこで水谷建設では、時々マカオ・カジノツアーが計画された。
取引先の大勢が動員され、マカオへ直行する。
そして、翌日は香港の指定されたホテルへ行くと1000万円の塊が羊羹として用意されている。
これをボストンバックに詰め、機内に持ち込む。
しかしカサ張るので、一人が持ち込める羊羹はせいぜい6〜7個。
このため、大勢の人間が動員される。
そして、万が一手荷物の内容を糺されても、「カジノで儲けました」 で通用する。

これが、水谷建設の裏金づくりとマネーロンダリングの手口。
このほかに、北朝鮮の高官に食い込んで、北朝鮮の海砂や川砂を韓国や日本へ輸出するルートを開発するなど、水谷功の裏道での発想力の豊かさには驚かされる。
そして、その裏金のほんの一部の1億2500万円が、4度にわたり小沢事務所に届けられたと、筆者はその詳細内容を丁寧に書いている。
目的は東北での土木工事で、「天の声」をかけてもらうため。
もとより、その正否については私などが口を挟めるところではない。

そして小沢問題は、この本に書かれている具体的な証言内容の、ほんの一部にすぎない。
関空工事におけるゼネコン談合の実態。
太田房江大阪府知事選挙における選挙応援の実態。
二階俊博事務所を中心とした南紀白浜空港の怪。
北川元三重県知事の口止め料など、次から次へと闇に包まれていた実態が人々の口を通じて明らかにされてくる。

書かれている全てが正しいとは思わない。
しかし、細かいシラミツブシの取材の持つ説得力には圧倒される。
あまり楽しくないどころか脅威すら覚える本。
だが、日本の裏面史としてお互いに一読し、直視する価値がある。



posted by uno at 07:07| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。