2011年06月10日

間違いだらけの「シロウト経済学」に対する正統派経済学の強烈パンチ


岩田規久男著「経済学的思考のすすめ」(筑摩選書 1500円+税)

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最近、経済学を学んだことのない「シロウト経済学」の本がよく売れているという。
法律や医療などの専門分野のことについては、シロウトは感想を述べ、意見を言うことはあるが、本まで書くことはない。
ところが日本では、経済学を学んだことのないビジネスマン、新聞記者はもちろんのこと、文芸作家、漫画家、医者、ニュース・キャスター、お笑タレントなどまで、誰もが円高や不況、デフレの原因、さらには日本の財政破綻について、専門家の経済学者顔負けで堂々と語る。
いや、語るだけではなく書く。
シロウトの書いた経済本は基本的な間違いを犯しているのだが、編集者の中にチェック出来るプロがいない。そのまま出版されてしまう。
そして、内容の是非ではなく、専門家の書いたものよりも分かり易い、というだけの理由でよく売れている。
このため、誤った認識が日本に浸透している。

その代表的な著書として、筆者は辛坊治郎・辛坊正記著「日本経済の真実・・・・ある日、この国は破産します」(幻冬舎) を俎上に載せている。
辛坊治郎氏は読売テレビのアナウンサーか解説委員。
一、二度テレビを見たが、真実に迫る理論が欠けているだけでなく、知識も浅い。
話がつまらないので、いつもチャンネルを変え、まともに話を聞いたことがない。
したがって、上記の著書は本屋で見かけたが、手にしたいとは思わなかった。
完全に無視していた。
ところが、著者はこの著書を取り上げ、シロウトの経済学の間違いを徹底的に批判している。
GDP計算の初歩的なミスをたしなめているだけでなく、収入のない個人と同じ時点で国家の破綻の危機を訴えており、国家の課税権を全く無視している点などを鋭く指摘している。
ここまで多くの間違いを指摘されると、辛坊氏にとってはむしろ爽快であろう。

問題は、経済学を学ばなかった辛坊氏に代表される多くの人々が、なぜ大きな間違いを犯すのか。

全ての人々は経済生活を営んでいる。
主婦は財布と相談しながら、毎日スーパーで家族の健康を考えて買い物をしている。
ビジネスマンはどうすれば売り上げが伸びるか。どうすれば生産性を上げて昇進・昇給が出来るかを考えている。
住宅を買おうとしている人は、金利の低い今ローンを組むべきかどうかで思案している。
誰もが身近な経済問題を抱えており、当然のことながら経済に対して何らかの意見を持つようになる。
ほとんどの商品が100円ショップで買揃えることが出来、スーパーで中国産の安い野菜を売っているのを見て、「デフレで物が安く買えるので助かる。だからデフレは良いものだ」と思っている人がなんと多いこと。
デフレのために失業者が増大し、企業倒産が増えているという事実を知らないし、なぜそんなことになるかという理由が分かっていない。
派遣労働者が雇い止めにあっているというニュースを聞くと、派遣労働の規制緩和をした小泉改革の「市場原理が悪い」のだと、菅総理のように短絡的に考えてしまう。
つまり、科学的な地動説よりも「太陽が地球の周りを回っている」という理解し易い天動説になびいてしまっている。

つまり、シロウト経済学が採用しているのは、身近の数多い経済現象から結論を引きだす「帰納法」。
「安いものは中国産に多い。したがって中国からの輸入を多くすれば、なんでも安く手に入るデフレになる」というのが帰納法。
これに対して経済学というのは、そのような安直な帰納法で答えを導きださない。
経済学が採用しているのは演繹法。
自然科学で用いられる「仮定、演繹、命題、命題の実験や観察による検証」という思考法。これと全く同じ。
経済学では人々・企業・政府の行動に対していくつかの仮定を立て、その行動がどのような結果をもたらすかを数学的に演繹する。
演繹で得られた結果が命題で、命題が現実的に妥当かどうかを検証する。
つまり、経済学は科学。
その詳細は省くが、シロウト経済学の帰納法と専門経済学者による演繹法の違いを細かく説明してくれていて、大変に勉強になる。
それらの全ては、是非この本を買って読んでいただくことにして、ここではデフレに的を絞って紹介したい。

辛坊本の中では、次のような記述があるという。
「日本経済は、長い間供給過剰な状態だった。現在日本のデフレ・ギャップは30〜40兆円と言われている。つまりそれだけ需要が不足しているということ」
これだけを読むと、日本経済を正しく理解していることになる。
ところが、需要が不足しているのは需要が消えていったからだと書いている。
つまり、企業の海外進出で需要が消えたことがデフレの原因だと唱えている。
ユニクロのように中国で生産するために、日本から生産に伴う需要がなくなったのだと説く。

一方、国内の需要が低迷している最大の理由は、国内に買いたいものがないからだと力説しているという。
「いくら、貴方がおカネを持っていても、100円ショップのものを買い占めますか ?  要はいくらカネがあっても、要らないものは買わないのです」。
そして、次のようにも言っているという。
「モノが売れないのは、買い手に力がないからではなく、売り手の側に売れるモノやサービスを生みだす力がなくなってきているからです」と。
ここでは、買いたくてもカネがないために買えないでいる多くの恵まれない人々のことが全く無視されている。
「日本ではなぜ、ヤフーやグーグルが生まれなかったのか ?  なぜソニーはipodをつくれなかったのか ?  これを考えることにこそ、日本再出発のカギがあります」とカッコよくほざいているそうだ。

これに対して、筆者は次のように反論している。
写メールの出来る携帯電話、デジタル・カメラ、カーナビ、プリウスやインサートに代表されるエコ・カー、洗浄機付きウォッシュレット、100円ショップ、ユニクロ・青山・青木などの衣料品メーカー、各種のプライベート・ブラインド、据置型ゲーム機Wiiなどなど、日本の企業は世界で一番多く売れる商品とサービスを開発してきている。
それなのに投資が伸びなかったのは、一方で需要を創出しても、デフレ政策が採られていて、削減させねばならない設備があったから。
問題をすり替えてはならない。
世界には、アメリカのようにヤフー、グーグル、ipodなどという新しい商品を開発できなかった国がいくつもある。
しかしこれらの国々は、15年に亘ってアメリカ並みの成長を果たしている。
イギリス、カナダ、オーストリア、ニュージランド、スウェーデン、フィンランド、ルクセンブルグなど。
「あれだけ新しい商品とサービスを開発した日本が、なぜこうした国々の1/3の成長にとどまっているのか。その理由を考えることこそ、日本再出発のカギがある」と。
「16年にわたってデフレを続けている政策運営にこそ、日本の致命的な欠陥がある」ということが、プロの経済学を学んだ者にとっては常識。

1990年以降の世界の経験から、中央銀行が物価の安定に成功しなければ、市場がどんなに効率的であっても、安定的な経済成長と雇用は達成出来ないことが分かった。
この物価の安定とは、インフレ率が2〜3%で推移すること。
ところが日本では日銀がこれに失敗して、16年に亘ってデフレが続き、いたずらな円高を招き、日本の産業と国民を疲弊化させてきている。
デフレから脱却するには、インフレ目標の設定が不可欠。
各国の過去20年間の経験に学んで、日銀法を改正して、日銀に2〜3%の目標達成を義務化させなければならない。
それこそが、いまやらねばならない火急の仕事。

菅さんは「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と叫んだ。
しかし、経済学を知らない首相では、何一つ解決することが出来なかった。
もちろん経済音痴の谷垣氏にしても、期待薄。
そして、日経連をはじめとした産業界のだらしないこと。

回り道かもしれないが、全ての人にこの著を読んで頂きたいとお願いします。



posted by uno at 15:25| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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