2011年06月30日

2011年上半期 読んで面白かった本のベスト10 (続)


さて、この100冊の中から選んだベスト10。
いつものことながら写真の写りが悪いのは、ご容赦あれ。

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◆10位  フォーラム欄でも書いたが、途中まではこの本が上期の最上位の作品だと考え、ワクワクしながら読んでいた。ラテンアメリカ各国の古い伝統的な農業技術を一つ一つ掘り起こし、丁寧に取材している。それは、化学肥料がなくても半永久的に継続して行えるサスティナブルな農業。とくにインドの地下水利用技術の長い歴史と現状と改善策について、よくもここまで調べたものだと感動させられた。
ところが、この著は全てネット上の情報を繋ぎ合わせたもので、一つも取材していないという。呆れてしまった。ネットでは現場へ行かなくても、自分の都合のよい情報を集めて能書きを言うことができる。そんな書き込みが多く見られるので、反面教師というかネット社会の危険な見本として、あえて取り上げた。

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◆9位  犬が主人公の本はけっこう見かける。だが、小説家などが書いた愛犬猫記はつまらない。
それに対してたまたま読んだこの3冊は、それぞれが社会的に大きな役割を果たした犬と飼主の物語で、いずれも格別に面白い。
「チロルとブルースマンの約束」は、チロルという雑種犬が日本で初めてのセラピードックとして、人々に癒しを与えながら成長してゆく物語。(6月10日週間書評294号参照)
「さよならアルマ」はNHKで「赤紙をもらった犬」としてテレビ化されたらしい。ともかく調教師との深いつながりが読ませる。
「ワンダー・ドック」は、偶然に高校のワンダーランド部で飼われることになった学校犬としての第一号物語。これもほのぼのとしていて楽しくなってくる。

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◆8位  今年、東日本大震災を見舞うために中国の温家宝氏と韓国の李明博氏が宮城と福島を訪れた。折角の機会だから両氏のことを詳しく知りたいと図書館を漁った。胡錦涛の本は見つかったが温家宝氏に関する本は見当たらなかった。これに対して李明博氏は立派な自伝を書いている。
オバマ氏の本は数冊も読んでいるのに、なぜこの著を読まなかったのだろう。おそらく、日本の政治家の自伝と同じで、やたらな自己PRに終始しているだろうと考え敬遠していたのだと思う。あるいは韓国だからと、見くびっていたのかもしれない。
この自伝は、経済人として叩き上げた実力のすごさに驚嘆させられる。公私のけじめをはっきり付けている姿勢と明快な決断力と実行力に惹かれる。人物として特級品。こんなにも素晴らしい本を見逃していたとは、と反省しきり。 
それに比べて、菅さんをはじめとした日本の政治家の意識の低さと粒の小ささ。修羅場をくぐってない人間の弱さを、嫌というほど分からせてくれる。

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◆7位  この著は今年の1月1日の元旦にこの欄で紹介した。したがって詳細は省かせていただく。
大手の量販店が何店もひしめく町田で、35%の粗利をとって堂々と大手に対抗しているその姿に、地場ビルダーも学ぶべき点が多い。
再読をお薦めしたい。

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◆6位  この著は6月17日の週間書評に紹介したばかり。  
WHOは感染症対策が主な仕事。 そこへ2.8億円のカネを自力で集めて、初めて食生活を中心とした生活習慣病の研究テーマを持ち込んだ。そして、25ヶ国、61ヶ所の50歳台の男女各100人ずつの血液や小水を集めてまわったという歴史的な意義を持つ好著。
日本の食生活改善運動は、この著を嚆矢としていると考えてよい。古いが一読の価値あり。

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◆5位  この著は5月30日のこの欄で紹介済み。
小沢一郎氏が書いたと言われている2冊の本をはじめとして、小沢一郎氏にまつわる本は10冊以上読まされてきた。今から18年前に出版された「日本改善計画」は、大蔵官僚4人による合作だと言われているが、とにも角にも75万部以上を売上げた。私も当時の小沢氏に大きな期待を寄せた。
ところが、途中から「政策」が忘れ去られ、小沢氏の関心事はもっぱら「政局」のみに移行。
その代表的なものが小泉氏の構造改革に対抗するために謀られた兼業農家への予算のバラマキ。
日本の将来を託すだけの器としての資格は、完全に喪失。
そして、カネにまつわる疑惑がついて回った。 誰の書いたものを読んでも、小沢氏を限りなくクロに近い灰色と書いているが、確証らしきものは挙げられてこなかった。
しかし、この著書を読んで、小沢氏の犯罪行為が確認できたと私は思う。ともかく著者は、徹底的な取材を積み重ねている。推定とかネット情報などは一切当てにしていない。水谷氏をはじめ実際に現金を渡したという人物に果敢にアタックしている。言質はとれてはいないが、状況説明は十二分。
それにしても、中古建設機械の転売が巨額の裏金を生んだ事実には驚かされる。

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◆4位  日本国内だけで750万部も売れた「窓際のトットちゃん」。海外でも売れているらしい。
たしかに黒柳徹子の作品は面白く、母親・朝のチョッちゃんものを含めてほとんど読んだ。
芸能界に関心がないので「徹子の部屋」は見たことがない。
「世界ふしぎ発見 !」でそれなりに芸能生活を続けていることと、国連のユニセフ親善大使として大活躍していることは知っていた。
その黒柳徹子が日本を代表する大舞台女優だという。そのことをこの本で初めて知った。 本当!?
それにしても、私は舞台を見ていなさすぎる。 せいぜい志の輔、談春、志らく、小朝の落語を聞きにゆく程度で、観劇は井上やすしと歌舞伎、新劇を10数回程度見ただけ。
したがって、舞台女優として知っている名は、古い北林谷栄、杉村春子、森光子、水谷八重子、岸田今日子、太地喜和子ぐらいだから情けない。
この本によると、徹子は主人公の人物像に魅せられて脚本を選ぶという。その結果、キュリー夫人伝とかフランス最大の女優サラ・ベルナール伝など、海外の脚本が多くなる。
その海外の主人公のあらゆる資料を集め、声質からクセ、日常的な服装まで徹底的に調べ上げ、見事な役作りを行っているそうだ。著者との対談を読んでみると、今まで読んだ役者の話とはケタと質が違う。宮崎駿のアニメづくりにしてもそうだが、産業界のモノづくりの現場よりもはるかに真剣で、創意工夫がビンビン伝わってくる。
ということで、本の面白さで高位に選んだが、一度舞台を見ないことには真偽は不明。

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◆3位  永田照喜治氏の著作は、3月25日のこの欄で紹介済み。
恥ずかしい話だが、私は永田農法なるものをつい最近まで知らなかった。
最初に新書版の「それでも食料自給率100%は可能」を読んで「おや」と思った。
急いで本屋を調べたら「美味しさの力」を見つけた。しかし、この本は今までの理論の総括編という性格が強く、永田農法の由来や特徴がわからない。
そこで図書館で「奇跡の野菜」を見つけて、やっと永田農法が何かが分かった。 
あの雁屋哲の代表的な名作漫画「美味しんぼ」の中で紹介されていた特別に美味しいトマトは、永田農法によるものだったことを図らずも思い出さされた。
永田農法の最大の特徴は、野菜や果物に与える肥料と水を最小限にして、野菜や果物の本来の野生と美味しさを引きだすことにある。
水を最小限にするため、トマトはあえてハウスで育てる。そして、旬を夏ではなく冬にする。そうするとトマトの糖度は高くなり、水に沈む重いトマトが誕生する。このトマトは、色が薄い。
河名秀郎は「ほんとの野菜は緑が薄い」という出版物を日経から出したが、これは明らかに永田農法の特許をパクったもの。河名という著者と日経は、他人の成果を掠め取りする名人。
20数年前に、永田農法はその体系を完成させている。 日本にはすごい農業技術がある。

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◆2位  これも、5月15日のこの欄で紹介済み。
中国で物を作り、日本へ持ってくるのは容易。しかし、中国をマーケットにすることはちょっとやそっとのことでは出来ない。まさに血の滲む努力が必要。
前世紀の後半に、ヤオハン、西友、ダイエー、イオンなど大手スーパー各社が、軒並み中国マーケットからの撤退を余儀なくされた。その中でイトーヨーカ堂は97年に成都へ、98年には北京へ店を出し、大変な苦労の上でやっと曙光を見出してゆく物語。
同じ時期に中国へ進出して成功を収めた企業にダイキンがある。
その苦労談が井上会長の「人の力を信じて世界へ」に書きこまれていたら、間違いなくダイキンの本を優先的に選んだであろう。
井上会長の「私の履歴書」を書いたのは日経の前田記者。 残念ながらこの記者は、空調換気業界の実態に明るくない。ダイキンの中国とヨーロッパへの進出に伴う苦労は並大抵ではなかった。ホットで具体的な話題にはこと欠かない。イトーヨーカ堂よりもダイキンの方に面白い実話が多く転がっていた。その一つとして、数年前に中国での第一線の苦労話を書いた高橋基人氏の「中国人にエアコンを売れ !」がある。
だが、これは現場の苦労話の一つに過ぎず、これ以外に笑いや涙の物語が無数にある。さらに、戦略的経営をどのように立案し、社員育成についてどんな問題が起こり具体的にどう対処したのか。
そういった知りたいことが一杯あるのに、日経の記者は具体論に一切触れていない。このため著書としての面白さが欠け、ダイキンが外れてしまった。
これは企業の差ではなく、著者である湯谷昇羊と前田記者との筆力の差。

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◆1位  これは先週の金曜日の週間書評296号に掲載したばかり。
日本は、医学と林業はドイツから学んだ。
素人の私が、日本の林業関係者の中で今までに一番信頼していたのは宮脇昭氏。
ドイツのチュクセン教授から直伝を受け、かつて地場で栄えていた樹種を発見しょうと模索していた時、鎮守の森にあるドングリが実る木こそがそれだと発見。
以来、製鉄所やスーパーの駐車場をはじめとして、日本の山林だけでなく世界の山にもドングリから育てた苗木を4千万本も植えてきた実践の人。
また、3月11日の週間書評281号で紹介した梶山恵司著「日本林業はよみがえる」も一時は惹かれた。
著者は林学の専門家ではない。日興リサーチセンターの派遣員時代に、ドイツの林業を数回日本へ紹介していたのを私も読んだ。それが縁となり、07年に菅さんが民主党の代表代行時代にドイツの林業視察に同行し、昨年暮に農林省が発表した「森林・林業再生プラン」つくりにも参画している。
そうしたこともあって、菅さんは宮脇氏同様にドイツ林業崇拝者の一人。
たしかに、ドイツの山林関連の出荷額は多く、林業関連企業の従業員数は、自動車産業より多いという。
それを見て、山道づくりをはじめ植林も、ドイツに学ぶべきだという議論が出てくるのは当然。
しかし、この著者は、「日本の山に植林をするのはバカげている」と一蹴している。
宮脇氏が日本の山で行った植林は、あまり正しい行為ではないと言うのだ。
その理由は、日本とヨーロッパでは降雨量が全く違うから・・・。
日本の山間部の降雨量はヨーロッパの数倍。しかもヨーロッパの雨期は冬で、夏はカラカラの乾燥期。
人工植林して、散水してやらないと育たない。
これに対して日本は、日照時間の長い夏に梅雨があり、秋の長雨がある。黙っていても草が生え、木が自然に育ってゆく。
間伐していない杉山は、密植で暗くて下草も生えていない。この山を一気に5割から8割も間伐すると、床に陽が当たって下草が生え、昆虫が増えてくる。
次に棘のある低木や草、蔓がはびこってくる。そして2〜3年目から草や蔓を突き破るようにして陽樹がどんどん育つ。すると陽樹に野ブドウ、アケビ、サルナシ、マタタビなどの蔓植物が絡みついて、日陰をつくる。蔓植物の実を食べるため多くの動物が集まり、落ち葉とフンで土壌が肥え、水辺も増える。
こうした蔓に絡まれた陽樹は20年ほどで蔓植物ともども寿命が尽きるが、その頃はドングリ実を持った陰樹が大きくなっており、日本の山は植林をしなくても選木するだけで見事に再生する。
北海道大学の苫小牧演習林が、そのことを見事に物語ってくれている。(週間書評175回 石城謙吉著「森林と人間 ある都市近郊林の物語」を参照)
ドイツのポリシーには学ぶべきだが、植林とか林道づくりは日本独自の技術開発に依存すべき。
そして、ドイツよりも急傾斜な山が多いオーストリアの方が、より多くが学べる。

同じことで、パッシブハウスでも、そのポリシーは学ぶべきだが、高温多湿の夏を知らないドイツの技術を全面的に受け入れることは出来ない。
独自の技術開発に依るべきだということを、この本が教えてくれている。 







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