2011年07月20日

今ほど日本経済の先行きが懸念される時はない (下)


経済学の専門家ではない者が、経済問題に触れているだけで、罪を犯しているような気がしてくる。
一方通行路を逆走しているような、バカげた行為・・・。
止めるべきだとわかっているが、今しばらく暴走をお見逃しあれ。

戦後の日本には、ケインズやマルクスに学んだ経済学者が腐るほどいた。
その中に、「日本は今、いままでの世界になかった千載一遇の高度成長のチャンスに遭遇している」 と叫んだ一人の学者がいた。
大蔵省時代は傍流で、孤高の経済学者に過ぎなかった下村治氏。
誰一人として気付いていないことを言い出し、池田内閣を動かしてその理論を見事に実証してくれた。
既存の概念にとらわれず、日本の現実を直視し、独創的な理論を構築し、敗戦で疲弊していた日本を見事に救ってくれた。
私は下村理論を体系的に勉強したことはない。
下村氏のイノベーション論に、ただただ感動しただけ。
そして、今でも宗旨替えする必要性がないと考えている。それは、その理論が借り物でなく、氏の鋭い観察力によって創造されたものだから。
言うならば、ミーハー的な下村治フアン。

フアンとして声を大にして言いたいのは、「資源のない日本が、世界第2位の経済大国として長期間に亘って君臨できたのは、国民の努力もさることながら下村氏に負うところが大きい」 と。
そしてこの下村理論は、日本での大きな実績があったからこそ、中国やインド、ブラジルなどの各国がその理論をなぞって高度成長政策をとることが出来たのだと考える。世界各国も、その正当性を認めざるを得ないのだと思う。
下村理論の実践がなければ、中国の経済発展はあり得なかった、ということ。
この下村理論を継承してくれているのが、私は竹中平蔵氏だと考えている。
下村氏が日本開発銀行の理事時代に師事して、そのエキスを十二分に吸収している。
竹中平蔵氏のことを 「市場原理主義者」 とレッテルを貼り、貧困と格差の拡大を図った張本人として糾弾する守旧派のお利口さんが、ワンサといる。

小泉内閣の 「聖域なき構造改革」。
小さな政府を目標に、郵政事業の民営化、道路公団の民営化など、誰もがなしえなかった「官から民」
「中央から地方へ」の構造改革を進めた。
この改革を、理論面でも実践面でも中心的な役割を果たして進めたのが竹中平蔵氏。
バブルの崩壊以来、不良債権を抱えて身動きが出来なかった失われた12年間。
金融再生プログラムで大胆にも銀行の不良債権問題にメスを入れ、バランスシート不況を断ち切った。
経済財政諮問会議という指令塔で骨太の方針を決め、「官」 の横暴を抑えて政治主導を実践した。
不良債権処理と規制緩和で、03年には28兆円あった基礎収支の赤字を07年には6兆円にまで減らした。
もし、小泉内閣が自民党の党議に縛られることなくあと2年間続いたら、基礎的財政収支は完全に黒字に転化したであろう。
国民の支持も高く、株価も大きく値上がりした。

それが、守旧派の麻生総理に変わり、鳩山・菅総理と無能な総理が続いて、日本は再び破局へ向かって突き進んでいる。
一番問題にしなくてはならないのは、民主党はアンチ自民、アンチ小泉・竹中を喧伝して票を集めただけだった、という事実。
田原総一郎氏が、「ジャーナリズムの陥し穴」 の著書の中で指摘しているように、派閥の密室会議で全部を決めていた自民党に国民は愛想をつかした。
バブルが崩壊してからは、マスコミ自身が糸の切れた凧のようになり、何も対案を用意せずに批判ばかりを続ける生産性のない機関に堕落。
そして、決して民主党が良いとは思っていなかったが、無責任なマスコミの煽りもあって 「政権交代」 以外には閉塞状態を打破出来ないと言う雰囲気が醸造され、政権が交代した。

民主党はアンチ自民党を叫ぶだけの寄合所帯で、そもそも党の基本哲学である綱領すら持っていない。
当然のことながら、独自の経済政策は持っていない。
下村治氏の薫陶を受けた骨太の経済学者を、ブレーンとして擁していない。
つまり、基本的な政策を立案し、国家を運営する経営能力がない。
このため、とくに菅内閣になってからは、一挙手一投足が財務官僚によって操られていることが透けて見える。
消費税増税論者の与謝野馨氏を、三顧の礼で経済財政政策担当大臣に迎えさせるという財務官僚のエゲツない行動。
政治主導という掛け声は、菅内閣で完全に失われたことを国民は知らされた。
もちろん、公務員改革は何一つなされず、大きな政府のままで国の累積債務だけがいたずらに増大を続け、増税路線をひた走っている。
2年前の公約は無視されたままで、支持率は歴代内閣で最低に。

政治論議をすることが目的ではない。
要は日本経済のデフレが止まり、円安に振れ、先進諸外国並み経済成長が図られ、税収を増やしてゆけるかどうか。
税収が増えれば、国債発行や増税に依存しなくてもやってゆける。
そのことを力説してくれている著者が3人いる。
初版発行の日付順に並べれば次のようになる。

竹中平蔵著 「日本経済 こうすれば復興する!」(アスコム刊 初版5月6日)

P1040865.JPG

一番早く出版された竹中氏の著書は、最初は 「日本の復活を妨害する30のウソ !」  というような表題で出版される予定だったらしい。ところが東日本大災害が突発し、急遽一部を手直して表題を変えたよう。
氏は、まず今回の直接的な被害額は16〜25兆円と予想されること。そして、復旧、復興、改革を一体化して同時進行でシームレスに行う必要性があり、道州制をイメージした東北州構想に近い形態で行うべきだと強調している。
そして、絶対にやってはいけないのが、「危機時の増税」 という愚策。
国民の所得が低下している中で国民に負担を求めるのは明らかに経済理論に反する。今回のような場合こそ、国債増発で対応すべき。
それと、緊急措置として採用すべき政策に、「寄付の控除の拡大」 が挙げられる。
日本国民は高いモラルを持っている。税制面で考慮すれば相当額の寄付が期待できる。
その分だけ税が減収になるが、資金に余裕のある人からの調達だから、低所得者にも負担を課す増税よりはるかに優れている。

問題の根源は、1990年代の半ばから日本では15年以上も続いているデフレ。
インフレよりもデフレの方がまだよいという考えがあるが、これは真っ赤なウソ。
物価が下がっても所得が下がらないのならデフレでもよい。しかし、物価とともに給料が下がり、しかもローンは下がらない。設備投資が行われず、雇用は失われる。そして、円高を招いて日本経済はますます委縮してゆく。
デフレをとめ、円高を止めるには日銀のデフレ誘導策の間違いを糺し、日銀と政府に責任を取らせねばならない。
日本経済が成長出来ないのは、デフレ政策にこそ問題がある。
そして、成長を抑制しているのは、既得権を守ろうとするグループが働きかけているから。例えば正規雇用者の年功序列と終身雇用体系を維持している官公労にとっては、デフレは大歓迎。そういった既得権を持った者が既得権を擁護すればするほど日本経済の成長はおぼつかなくなる。

日本経済が短期的になさねばならないことは復興特需を引き出しつつデフレを克服すること。この間は間違っても増税してはならない。
中期的には、名目成長率を4%と決め、一方公務員の給料や社会保障費などの大胆な歳出削減に取り組み、財政を再建させること。
長期的には、安心国家のための20年ビジョンを各党に示させ、国民が選べるようにして行くこと。与野党の野合などはもっての他。

岩田規久男著 「経済復興」 (筑摩書房 初版5月10日)

P1040849.JPG

氏は、緊急対策費としては総額40〜50兆円が必要と考えられる、としている。
11年度は10兆円を計上し、5〜6年に亘って40〜50兆円を投下する必要がある。
この復興財源は日銀引き受けの国債の発行により調達する。
なぜ日銀引き受けとするか。
それは、民間が使える貨幣が40〜50兆円増加し、需要拡大効果が大きいから。
そして、次のような好循環を生む。

手元金の増加 → 預金増 → 金利低下 → 国債買い → 国債上昇 → 国債の金利低下 →
社債や外国債の購入 → 円が売られて円安外貨高 → 社債の増加 → 資金調達がやり易く設備投資 → 雇用増、失業率の低下

ただし、日銀が国債発行を引き受ける条件として、以下のことが守られねばならない。
(1) 政府は、復興が軌道に乗るまでの当面のインフレ目標値を3〜4%に設定する。
(2) 上限が4%を超えないように、復興債の引き受け額を調整する。
(3) 復興が軌道に乗れば、諸外国並みの2%にまでインフレ率を引き下げる。

現在の日本は、1932年に高橋是清が直面していたデフレと超円高という状況に酷似している。
高橋是清はこの難問を克服した。是清に出来たことが、現政府に出来ないことはない。
日本は先進諸国の中で、唯一のデフレ国であることをまず確認しなければならない。
このデフレ下での増税は、絶対に避けるべき。
なぜなら、需要はさらに減退し、更なるデフレを招くから。

日米のインフレ率差のマイナス幅が拡大しているから、円高ドル安になる。
日本の政府と日銀の無策から、日本のデフレが更に進むとマーケットは読んでいる。
だから利殖のために円を買う。
この悪循環を断ち切らない限り、日本経済の真の復興はあり得ない。

高橋洋一著 「これからの日本経済の大問題がすっきり解ける本」 (アスコム刊 初版7月8日)

P1040845.JPG

高橋氏の著作は、上記の2冊よりも2ヶ月後に出版されたので、内容がはるかに充実しているはずだと考えた。
しかし、残念ながら期待したほどのことはなかった。
これは、今までにデフレ対策と日銀政策に対して様々な提案がなされてきており、新規に提案することが少なかったことによる。 (2010年9月20日に紹介した「日本経済のウソ」と、今年1月5日に紹介した 「「消費税《増税》はいらない !」 の著作を参考にされたし)

氏が本著で強調しているのは、現在GDPギャップは20〜30兆円ある。
それを埋めるとともに、直接間接被害額をまかない、同時に円高を防ぎ、国内財政効果を高める対策が求められる。
それには、来年度予算の組替えで財源を捻出するよりは、別途に新規財源を用意した方がよい。
まず、直接被害額の半分程度に相当する復興国債20兆円を、日銀の直接引き受けで発行する。
さらに、財務省の国債整理基金に過去に発行した国債によって10兆円の溜まりがある。
また、労働保険特別会計でも5兆円の埋蔵金がある。
だれにも迷惑をかけずに捻出出来る復興財源がこれだけある。
リーマンショック以降、各国は金融緩和してマネーを大量に供給しているのに、日銀はマネーを出さず、日本の円は相対的に少ないために円高基調になっている。
今までの小出しの予算では効果が薄いことが明白。その反省に基づいて30数兆円をドカーンとぶつけるべき。

その財源を使って真の復興を果たす受け皿として、道州制の東北州に匹敵する復興院を創設すべき。
中央省庁の下請け機関ではなく、道州制を先取りすべきと提案している。この提案は、竹中氏の提案と酷似している。
さらに高橋氏は、一歩踏み込んで、国会を福島県に移転すべきだと提案。原発で受けた福島県のダメージを払拭するには、国会の福島移転が最も有効。
だが、今まで言われてきた遷都とは異なる。移転するのは国会と中央官庁のみ。
この提案は大変に面白い。経済評論家が提案するのは筋違いで、本来は民主党内や自民党内の若手議員からの共同提案であるべきもの。
高給取りの国会議員は、本当に国民のことを考えていない証拠。

また、大災害のドサクサにまぎれて、増税のチャンスを狙っているのが民主党と自民党の大連立内閣構想。これは、明らかに財務省の演出。
震災増税は、災害復興を遅らせると、氏は様々な資料を挙げて力説。
この点と復興財源は日銀引き受けによる国債発行という点で、3氏の意見は完全に一致している。
問題はこの正論が、どれだけ民主党と自民党の若手議員に浸透するか、である。
みんなの党に負けないだけの猛勉強に期待したい。

そして、高橋氏も世界恐慌時に高橋是清がとった国債を日銀に直接引き受けさせて成功した事例を紹介している。その成功例を、現在の首相や財務相が知らないのは、都合が悪いので財務官僚が説明していないからだと断言。
さらに氏は、東電の解体と発電事業と送電事業の分離も提案している。
補償費が4.5兆円までですめば、東電は持ちこたえられると試算。送電事業を売却すれば、5兆円の財源は確保できるとも言う。
この辺りになると、私の手に負えない。

ただ、私が3冊を読んで確信が得られたのは、もし竹中平蔵氏が日銀の総裁になり、高橋氏が財務大臣になったとしたら、間違いなく日本経済は再生し、日本の未来に対する希望の灯が燈る。
それを選出するだけの大胆な度量が、日本の国会議員にないだけのこと。


posted by uno at 07:35| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。