2011年08月10日

電子書籍で一番成功した男が語る 「限界とメリット」


日垣 隆著「電子書籍を日本一売ってみたけど、やはり紙の本が好き」(講談社 1300円+税)

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新しいイノベーション分野として注目されている電子書籍。
何しろ、新しい技術革新に対する好奇心は、人一倍強い方・・・。
このため、電子書籍に関する本は いままで10冊近くは読んでいる。
しかし、アマゾンの「キンドル」、「iphone」や「ipad」、あるいはシャープの「ガラパゴス」やソニーの「リーダー」などのデバイスを、実際に操作した経験がないどころか 触ったことすらない。
このため、いくら本を読んでもさっぱり頭の中へ入ってこない。
そして、各著書が叫んでいる「電子書籍元年」とか「紙の時代の終わり」という言葉に、ひたすらオドオドさせられ通し。
現役だったら 職場の若い人から話を聞くことが出来るが、文系のSOHOの哀しさで電子書籍は簡単に消化が出来ず、正直言ってオロオロしていた。

そして、10冊目でやっとこの本に巡り会えた。
「なぁーん だ」と思った。
「それほど大げさに考えなくてもよいのだ」と、安心した。
私同様に60歳を過ぎた御仁で、電子書籍を前にオロオロしている人も多いと思う。
著者の本音の告白を読むと、「そうなのか」 と安心が出来る と請け負える。
今までは、実際に自分で電子書籍の本を書いたことも発売をしたこともない人・・・・つまり、現場力のない評論家が書いたものがほとんど。
著者が挙げている何冊かの著書 「私にはもう出版社はいらない」 「ルポ 電子書籍大国アメリカ」 「コンテンツ消滅」 「リストラ なう !」 「フラット革命」 「2011年新聞・テレビ消滅」 「本はこれから」 「電子書籍の彼方へ」 「ウェブはバカと暇人のもの」・・・ 
この中の半分近くの本を私も読み、その恫喝に怯えてきた。

新聞は、かつて感じていたほどの情報を伝えてくれていない。テレビに至っては視るに値する番組は全局を網羅しても日に2時間程度しかない。
ネットを開いたり携帯をいじっている私的時間の方が、テレビや新聞に使っている時間の数倍という人が増えている。
スポーツの結果は、ネットの速報が詳しく教えてくれる。
天気予報、列車の運行状態、高速道路の混雑ぶりなども、テレビやラジオに頼る必要がなくなった。
だが、2011年になっても 新聞やテレビは、上記著書で喧伝していたように消滅してはいない。
スポンサーが目に見えて減ってきていることは分かるが、まだ給料カットやリストラするまでには至っていない。
つまり、習慣として電車の中で朝刊を読み、帰ったらとりあえずテレビを点ける人が多いので、視聴率などというお化けも生きている。
電子書籍も、言われたほど普及はしていない。

著者が電子書籍の時代を意識させられたのは、作家生活に入った25年前の1986年からだったという。
その時は、仕事もほとんどなく 家族を抱えて半失業状態。それでも100万円はしたワープロは在職中に買って持っていた。
当時のアメリカの作家は、自宅で電話回線を使って図書館のデーターベースへの検索や、新聞の閲覧検索を自在にやっているという情報を得た。
そこで、東京の安アパートの黒電話から ワシントンポストへのアクセスを試みた。10数時間かかったが、なんとかワシントンポストへのアクセスに成功。
Watergate Scandal と打ち込んだら、厖大な関連記事がドサーツと出てきた。
思わず涙が出てきた。
これが著者にとっては電子書籍元年。 そして、電子新聞や書籍の電子化、自サイドでのオリジナルコンテンツの販売という時代の到来が予測出来たと言う。

25年前というと、住宅業界ではコンピューターによる積算が開始された頃。
仙台の仲間の北洲ハウジングが コンピューターによる積算を開始したと聞いて、担当技術者を連れて教えを乞いに出かけた。
そして、設計業務そのものがコンピューター化されはじめたのは、記憶は怪しいが1989年頃だったと思う。
友人の設計家・ホームビルダーコンサルタンツの井上所長が、マックで平、立面はもとより展開図、構造図、部分詳細図も描いていると教えてくれた。
早速、マックを8台導入し、友人の事務所へ講師を依頼してマックによる製図勉強会を数回開催した。
その時に私も一緒に勉強したのだが、自分の機械がないと練習出来ないし身につかない。そこで14インチの一番小さいセットを業者から買った。 
10台近くまとめて買ったので業者は特価で納入してくれたが、それでも140万円もした。当時は車よりも小型のコンピューターの方が高価だった。そんな時代の話。 
いかにして構造図を早く書かせるかと言うテーマに没頭していて、電子書籍のことなどは考えてもいなかった。

著者が、メルマガ「ガッキィファイター」を開設したのは、なんと14年もたった2000年のこと。しかも当初は無料。
なぜ最初から有料に出来なかったかと言うと、情報に課金することに対して どのクレジットカード会社も及び腰で応じてくれなかったから。
しかし、ダイナーズ、アメックスなどのクレジットカード会社を説得して回り、02年10月には日本で初めての有料メルマガ第1号が誕生した。
グーグルなどの影響もあり、「ネット情報はタダ」 という常識が行きわたっている。
私がハーティホームでホームページを立ち上げたのが2000年。
翌01年に、初めて1日のアクセス数100人を突破させることが出来、02年のピーク時には400人/日のアクセス数を記録した。
しかし、ネット情報がカネに出来ると考えたことは一度もなかった。
電子書籍で一番の問題はなんといっても課金。
それを、クレジットカードで一番先にやりとげたのだから画期的。

そして、著者の記念すべき電子書籍第1号は、「魔羅の肖像・・・・ルーヴル美術館を笑う」 だったという。ルーヴル美術館の男性の彫像50体を撮影してきて、男性自身が思ったより小さかったり、歪んでいたりしたのをカラカイ半分で解説したキワモノ。それが、01年のメルマガに載せた時はそれほどでもなかった。それが9年後ネット販売店の理想出版から電子書籍として売り出したところ、「アップルが書籍化に反対したキワモノ」という広告が効いて5000部も売れたと言う。
また、95〜96年にかけて月刊誌に掲載した 「情報の技術・・・インターネットを超えて」 が文庫本になったが絶版となった。
絶版になったら、いくら消費者が入手したいと思っても不可。そこで、PDF化して自分のサイトで売ることにした。専門家に依頼してPDF化にかかった費用は1500円程度。
つまり1冊売れれば元がとれる。ところが、○万冊も売れたと知った文庫本の出版社は、ムッとして黙り込んだままだった。
それ以降も、ネットや雑誌で公開してものを逐次書籍化してきている。

このように、電子書籍で売れ易いのは軽いタッチとか 若干キワモノのノンフィクションもの。それと技術入門書のようなもの。
これに対して、大手書店などが考えている電子書籍は、どちらかと言うと既存の文学全集などの電子書籍化。
軽い読み物だと、デバイスで抵抗なく読める。
技術書のPDFは、いざという時はプリントして読めばいい。
これに対して、たとえば 「カラマーゾフの兄弟」 をデバイスで読めと言われると、それこそ死ぬ思いをすることになる。
誰が考えても力作の長編小説を、電子書籍で読もうとは考えない。
つまり目的や内容によって、電子を選ぶ場合と紙を選ぶ場合がある。
今までの習慣もあることだし、その取捨選択はどこまでも消費者に任されている。

ただ、現時点で電子書籍が圧倒的に有利な立場になっているのが辞書類。
私も、つい先ほどまでは大辞林、英和・和英辞典が絶対に欠かせなかった。
ところが、最近は分からない語句が出てくると、ネットで調べる方が早くて正確。
辞典の世話になることが非常に少なくなった。
著者は、「物書堂」 を紹介している。この会社は、「大辞林」や「角川類語新辞典」のアプリを開発しただけでなく、この2つをリンクさせたことが画期的だという。
類語辞典と言うのは物書きとっては死活にかかわるほど必須のもの。今までは大辞林で調べた後、類語辞典で当たり、再度大辞林に戻るという手間が必要だった。それを一気に解決してくれているので売れていると言う。
また、美しい元素の写真がぐるぐる動いている「元素図鑑」は、紙では到底及ばない特徴のために売れている。
ただし、平凡社の「世界大百科事典」がアプリになっていない。このため、電子書籍類の中で、この部分だけに大きな穴があいたままになっている。

紙の文化では、今まで小説にしてもノンフィクションにしても、次のようなビジネスサイクルで作品が回転していた。
●雑誌 → 単行本 → 文庫 → 全集
この文庫の後に → 電子書籍又は全集 というパターンがくる形で、多くの人々は電子書籍のことを捉えようとしている。
もちろん、いきなり電子書籍を考えている試みもある。また、携帯電話の小説が単行本化したという例もある。だが、これらが主流になるとは考えられない。
そして、著者はいち早くメルマガを立ち上げた経験から、新しくつぎのようなビジネスサイクルが生まれてくると考えている。
●メーリングリスト → メルマガ → 単行本 → 文庫 → 電子書籍又は全集

つまり、紙と電子は必ずしも敵対関係にあるのではなく、往ったり来たりの関係にあると唱えている。
必ずしも電子書籍で読まなくても、優れた作品は紙化されると考えてよい。
そして、絶版になったらPDF化するのと同じように、メルマガからPDFによる単行本化の可能性もあるという。
私の著作の中で一番人気が高かったのが住宅産業新聞社刊の「高気密住宅奮戦記」。
とっくに絶版になったが、今でも「ありませんか」という問い合わせが多い。
別に儲けるつもりはないが、PDF化というのは大きなヒントを与えてくれている。

いずれにしろ、電子書籍は短くて、ノンフィクション向けに最適。
そして、日本には優秀な読者200万人しかいない。その中で、自分で選んで良い本を選べる人は20万人がいいところだと著者は考えている。
その人達にデバイスが行き渡った時点で、日本の電子書籍も頭打ちになる。
これからは、テレビ、新聞、紙の本、パソコンや携帯などを含めて、人々が自由に使える2〜4時間という時間の、奪い合いになる。
その中で、かつては圧倒的に強かった新聞とテレビというメディアが後退を余儀なくされてゆく。
しかし、どんなに電子化が進んでも紙が無くなるということはあり得ない。とくに日本の文庫というのは世界でもっとも優れた紙。版を変えずに文字を大きくする技術も進んでいる。

この本は、前編、中編、後編の3部から成っている。
紹介したのは全て書き下ろされた前編の紹介。中編と後編は面白くない。
そういう意味では、価値は1000円しかないと言えるが、電子書籍ブームという亡霊に迷わされていた者にとっては、頂門の一針と言える。


お詫び  本日一条工務店の「床冷房見学記」を掲載する予定でしたが、2〜3確かめなければ諸点が出てきましたので、次回とさせていただきます。



posted by uno at 07:02| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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