2011年09月25日

これから10年間の日本と中国の近未来を大胆に予測


ジョージ・フリードマン著「激動予測・・・・影のCIAが明かす近未来パワーバランス」(早川書房 1800円+税)

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著者は国際情勢に関する民間情報企業「ストラトフォー」の創設者でCEO。
2001年の9.11テロ事件でブッシュ政権とアルカイダの動きを見事に予見したことで評価を不動のものにした。また、福島原発の被害状態がメトルダウンであるとの見解を、翌日の3月12日の時点でいち早く予見していたと言うから驚く。
その著者が、これからの10年間にアメリカを中心に中東、ロシア、ヨーロッパ、アメリカ大陸、アジア、アフリカの各国がどのように激動して行くか、そのパワーバランスを予測したもの。
これは、まさしく政治の世界。 
それにしても、影のCIAと呼ばれるだけのことはあって、全世界の裏情報に明るいのにはびっくりさせられ、あっという間に読み終えてしまった。 それほど面白い。
しかし、世界の政治情勢を語るのは私の仕事ではない。
ただ、この本の中に書かれている日本と中国の近未来の予測図は、1つの見方として大変参考になるとともに、大きな疑問点が浮上。
たった8%しか占めていない紙数の範囲から、気になった3点に絞って拾いあげてみた。

●日本だけが氷河型社会ではなく、地震型社会
アメリカをはじめとした世界の先進諸国は氷河型社会。氷河の流れは大変に緩いが、小さい変化は絶えず起こっている。社会、政治体制が常に少しずつだが変わっている。
これに対して日本では、さまざまな出来事が起こっているが、長い間に亘ってほとんど変化は見られない。
ところが地層の下に蓄積された圧力が、ある日突然撥ねて大変革を起こす地震型社会。
明治維新と産業の近代化はまさしく地震。
第二次大戦の敗戦で軍国主義から最も遠い国に変わり、脅威の経済成長を成し遂げたのも大地震。
そして、今度の東日本大震災は、自然災害が日本のエネルギーのセーフティネットに対する信頼を打ち破った点に最大の特徴がある。

日本は海洋資源以外に資源らしい資源のない国。 日本の工業力を支える鉱物資源のすべては海外、中でもエネルギー資源を政情が不安定なペルシャ湾に依存している。
タンカーの安全運転は、アメリカの海軍の強大な軍事力によって守られている。
その中にあって、原子力は水力とともに日本では自主管理が可能なエネルギー源で、日本のエネルギー自立に貢献してくれるセーフティネットであるはずだった。
そのセーフティネットの安全神話が、偽装であったことを原発事故で知らされた。ペルシャ湾の政治危機が同時に起きたことで、日本は自らの運命を自分で決められない現実に気付いた。
そして、日本の政治力の脆弱性がこの危機に対処出来ないと悟った時、社会と政治がさらなる激震に見舞われる可能性が高まってくる。
その最初の地震は、もしかしたらすでに起こっているのかもしれない。

●国内問題に足をとられ、弱体化し始める中国
中国が1980年代から急成長出来たのは、毛沢東がそれまで国内の成長を抑圧していたから。
外国人の追放と大規模な抑圧。そして沿岸部からの富を収奪して内陸部への再配分。こうした暴力的な政治力による貧困の平等化で、一時的な安定を達成していた。
毛沢東が死に、このタガが外されたので潜在需要が顕在化し、中国人の商才が発揮されて急成長した。
しかし、急成長出来たのは主として200キロまでの沿岸部で、人民銀行の調査によると年収2万ドル以上の中流世帯に属する人口は6000万人。そのほとんどが沿岸部と北京に住んでいる。
しかし、人工13億人のうち6億人の家族は日に3ドル未満で暮らしている。さらに4億4000人が1家族当たり日に3〜6ドル未満で生計を立てている。
言いかえれば、80%に当たる10億4000万人がサハラ以南のアフリカと変わらない貧困の中にある。
沿岸部200キロのベルト地帯とそうでない地帯では、大きな断層に沿って分裂している。

適度な繁栄と成長が見られる時は、たとえ不平等が拡大しても中央政府の手に負える。
ほんのわずかでも、絶対的生活水準が向上しているからだ。この向上が不満を解消してくれる。
しかし、中国は人件費では、もうパキスタンやフィリッピンに勝てなくなっている。
未熟練の農民工は無尽蔵に存在するが、半熟練労働者の不足から人件費が上昇している。その経費増で輸出品の利益は低下。
今後、成長力の低下で国内での競争力はより激化し、輸出相手国の景気低迷から企業体力と返済能力が弱体化し、金融システム全体が大きな負荷にさらされることになろう。
失業が増えれば中国は大変なことになる。中国では職を求めて多くの小作人が都市に移り住んでいる。
こうした労働者が職を失えば、都市に残っていても社会不安を招くし、農村に帰れば地方はますます貧困に陥る。
本来倒産すべき企業への融資を銀行に促したり、輸出に補助金を与えて国営企業をつくるなどして雇用を保つことは出来ても、経済の空洞化は避けられない。

中国は、これからの10年間でさらに国内治安を強化するしかない。
人民解放軍はいまでもすでに巨大。社会の最貧層から集められた人民解放軍のまとまりと忠誠を保つには、沿岸部と6000万人の富裕層に課税し、ピンはねした税金を人民解放軍と小作農に分配しなければならない。
そうすれば、最低限人民軍の忠誠はつなぎとめることが出来よう。
つまり、これからの10年間で、中央政府がどのような基本政策をとるかがカギ。
まさか、毛沢東方式で国を閉ざし、沿岸部の企業と労働者を弾圧し、海外権益を追放するという形で問題解決を図るとは考えられないが、いずれにしてもかつて20年前に日本が直面した国内問題にとらわれ、中国は弱体化しはじめるだろう。

●アメリカが考えるアメリカ対日本、日本対中国との関係
欧米のエコノミストは、日本経済が陥っていた20年を称して 「失われた20年」 と呼ぶが、これは本質を正しく理解していない。いや、欧米の価値観を日本に押し付けているだけ。
結束の固い日本社会にあっては、完全雇用を維持するために成長を犠牲にした。これは10年をムダにしたことではなく国の中核的利益を守り通したことに外ならなかった。
この時期に日本の女性は職場への進出を果たし、同時に出生率の低下を招いた。
そして、これからの10年間では公的、民間部門の債務を際限なく増やし、完全雇用を維持する方法はとれない。
日本も、中国同様に経済モデルの転換を迫られている。
しかし、日本には中国にない圧倒的な強みがある。それは貧困にあえぐ10億人の国民がいないこと。
日本は、いざという時は社会不安を起こさずに乏しさに耐えることが出来る。

日本の根本的な弱点は、石油から天然ゴム、鉄鉱石にいたるまで、産業が必要とする天然資源にあまりにも乏しいこと。
日本が工業大国であり続けるには、国際貿易を振興するしかない。
万が一シーレーンが利用出来なくなれば、日本は全てを失う。
現在、日本はシーレーンの確保の全てをアメリカに依存している。つまり、アメリカが日本のシーレーンの全てを支配している。そして、日本に対してアクセスを保証している。
だが、アメリカはテロ戦争でホルムズ海峡を通るタンカーが脅かされないように注意はしているが、アメリカがこれで良かろうと考えている程度で、日本が満足しているとは限らない。
日本は、表向きは平和勢力で、攻撃的な軍事力を持つことを自から律している。
しかし平和憲法は、シーレーンが脅かされるとなると、西太平洋地域で最も有効な海軍力を持つことも、空軍力を増強することの妨げにはならない。
日本はアメリカがシーレーンを確保してくれている間は、自立しょうとは考えない。自立するよりも費用がかからず、危険もはるかに少ないから。
アメリカの対日戦略のポイントは、日本とは出来るだけ友好関係を維持すること。
しかし、日本ほどの経済規模を持ち、それでいて脆弱なシーレーンしか確保していない国は、いずれにしろ自衛方法を模索しなければならない。
しかしそれは、これからの10年間にはやってこないだろう。

強大な海軍力の構築には数世代を要する。必要な技術を開発し、培われた経験を伝え、優れた司令官を育てるには時間がかかる。
中国は最近、海軍を増強しているのは間違いない。だが、アメリカや日本と海上で対決出来るようになるのはまだまだ先のこと。これからの10年や20年で、中国海軍が周辺海域からアメリカを締め出すことはあり得ない。

アメリカにとっての危険は、日本と中国が同盟を結ぶことではない。 日本と中国は余りにも多くの面で争い、深刻な相違点を抱えているから緊密に協力することは出来ない。
今回の被害で日本は、20年間身にまとっていた静かで控えめな姿をかなぐり捨てねばならないだろう。
他方中国は、経済大国から凋落する。
アメリカの難題は、発展段階の異なる2大経済大国と適切な関係を築くこと。この2大強国がより直接的な関係を築き、本来の均衡点を見出すよう見守らなくてはならない。
日本も中国も、これからの10年間で地域覇権国として台頭することはない。
中国の経済奇跡は、経済成長の例にもれずやがて鈍化する。中国政府は、安定維持策という困難な仕事に取り組むことになる。
一方、日本は構造改革を進めながら外交政策をグローバルに折り合わせてゆく。
そして、アメリカが目を光らせていなければならないのは、矢張り日本の動向。
最初に書いたように、日本は地震型社会。
必ずや力を付けて、必然的に海軍力を増強する。
アメリカの基本方針は海軍国家の台頭を絶対的に阻止すること。
そのためには、中国が沿岸国と内陸国に分裂しないように万全の手を打つこと。中国国内が安定していないと、対中投資を統制出来ない。
中国の工場と労働者を狙う日本のたくらみをかわすには、中国の安定と統制が必要。
日本の対外拡張を防げば、日本経済の復興を遅らせ、時間稼ぎなるという点でアメリカの利益になる。
それと韓国の存在が、これからの10年間、アメリカにとっては日本対策という面で大きな存在になってくる。


以上がおおまかな要約。多少、誇張している点はあるが・・・。
著者は、何故だかは知らないが 必要以上に日本の復活を信じている。そして、海軍力の増強を怖れている。
一体、何を根拠に警戒しているのだろうか ?  そして、アメリカの中枢部は同じ警戒心を共有しているのだろうか ?
だらしのない日本をここまで警戒されるとこそば痒くなってくるし、民主党と自民党のだらしなさが次の大地震を生む伏線になっているのかな、と邪推もする。
それともこれは、早川書房らしい一級品の推理小説なのだろうか ?


posted by uno at 01:00| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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