2011年09月27日

アジアが勃興し、日本企業だけが衰退している


前回、ジョージ・フリードマン「激動予測」の中の、日本と中国に関する記述だけを紹介した。
しかし、「中国経済が凋落し、日本が力をつけて海軍力を増強する」という最後のくだりが、どうしても納得出来ない。
この翻訳書が出版されたのは今年の6月。
しかも、東北大震災のことまで書かれていたので、遅くても今年の4月頃に書かれたものだと早とちりしていた。しかし、この本が書かれたのはリーマンショックが冷めやらない3年前だったらしい。
輸出依存型のアジアの各国は、たしかに一時的には大きな影響を受けた。
中国沿海部やタイ、インドでも工場がストップし、職を失った労働者が巷にあふれ、アジアの立ち直りには時間がかかるだろうとの見方が一般的だった。 その時期の著作らしい。東北大震災に関する記述は日本語版出版のために付け加えたもの。

しかし現実は、2009年の4〜6月期のGDPの対前期比伸び率は、韓国11%、シンガポール20%、タイ9.6%とすごい数字が並び始めた。前期が悪すぎたからであり、一時的な伸びに過ぎないとする見方が圧倒的だったが、世界が疲弊している中にあって、アジアの回復は目覚ましいものがあった。
その動きを見て、NHKはスペシャル番組「灼熱アジア」という企画を立て、2010年からタイ、中東、インドネシア、韓国の取材を開始している。
「激動予測」とは2年近いズレがある。このため、その取材内容はフリードマンの予測とは大幅に異なるものとなった。フリードマンは、アジアの力を過小評価している点もある。
残念ながら、私はNHKスペシャルを見落としていた。
そして、今ごろになってこの本を読み、慌ててしまった。
前回取り上げた「激動予測」を真に受けて、中国は凋落の道をたどっており、日本は力強く蘇ると皆さんが考えられたら大変なことになる。
NHKスペシャルによると、凋落しているのは間違いなく日本。
そのため、前回の「激動予測」を消さずに、今週は下記を急遽おまけで追加することにした。

NHKスペシャル取材班著「灼熱アジア・・・・FTA・TPP時代に日本は生き残れるのか」(講談社 1400円+税)

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まずタイ。「脱日入亜 日本企業の試練」
2010年の5月。「赤シャツ」と呼ばれるタクシン元首相派が引き起こした政治騒動の中にあっても、港は活況を呈していた。この年、タイの輸出額は過去最高を記録している。
タイがこのように活況をていしている理由の1つに、いち早くインド、オーストラリア、ニュージランド、中国、韓国などと締結したFTA(自由貿易協定)がある。
たとえば日本から中国へ自動車を輸出すると25%の関税がかけられて100万円の自動車が125万円になる。ところが、タイからだと100万円。これが、輸出だけでなく、原材料の輸入面でも有利に運ぶ。
ASEAN10ヶ国とインド、中国、韓国、日本、オーストラリア、ニュージランドの32億人のマーケット。
このマーケットと関税なしで結ばれている中心にタイが存在する。
世界の企業がタイへ進出してきている。デンソーもその1つ。日本の企業は脱日入亜で海外へ企業を移さないと生きて行けない。
そのデンソーの技術者育成の現場で驚かされたのは、日本とタイとでは教える技術教育内容にほとんど差がなくなってきていること。

アマタ工業団地にいち早く進出し、アジアの急増する金型需要に対応している中堅企業の南部。
求められる精度は1/1000ミリ。それをタイの技術者が軽くこなしていて、フル生産。2010年の受注は前年の2倍。
昔は、日系の中小企業は、日系の親会社としか取引していなかった。ところが、タイでの技術力がついてきた南部では、国境を超えインドネシア、マレーシア、ベトナムの日系以外の企業とも取引している。さらに南部は、中国の常州にも油圧シリンダーの工場を建設している。この工場は中国向けだけで手一杯だという。
この南部のタイ人従業員を取材している中で、記者は中間層が確実に増えていることを実感している。
共稼ぎの若い従業員はいま、月々の給料からローンを組んで1戸建てやマンションを買い、日本のメーカーがつくっているピックアップトラックや乗用車を買って通勤や、実家に預けている子どもに会いに行っている。
交通事情の悪いタイでは、1家で車を2台も3台も持っているのも珍しくない。

日本を代表する金型メーカー「オギハラ」。戦線を拡大しすぎて倒産。日本の企業でオギハラを救おうとする会社がなかった。そのオギハラを買ったのがタイの最大部品メーカーのタイサミット。
オギハラの技術者が、その技術力をタイへ移植するのに苦労している姿も克明に取材している。
こうした取材を通して、日本の技術力は次第に逆転現象を起こしているということが良く分かる。
日本の政治と経済がモタモタしているうちに世界は変わってゆく。
こうした取材をみていると、とてもフリードマンの言うような力が、日本にあるとは信じられなくなってくる。

次は中東。「砂漠の富の争奪戦」
ここでは、石油を出来るだけ温存して、砂漠を利用して巨大な太陽光発電を行い、その電力をヨーロッパ各国へ売ろうとしている産油国のエネルギー革命の実態。
それと、日本が圧倒的な力を示してきたプラントの技術力が、次第に蝕まれている実態。その中で頑張っている日本の企業人の姿が鮮やかに浮かび挙げられている。

次はインドネシア。「巨大イスラム4市場を狙え」
インドネシアの人口は2億3500万人。
中国、インド、アメリカに次いで世界第4位。 そのうちの2億人はイスラム教徒という。
ここでは、インドネシアみずほ銀行とバイク購入ローンを展開する物産の動きを中心に取材している。
「コーラン」では、汗を流さずに儲けることをいましめるために、「利子」を禁止している。
その中で、貯蓄やローンを普及させてゆこうとするのは並大抵ではない。
また、みずほ銀行の仕事は、日本から進出する企業の手とり足をとってのコンサルテングサービス。それと食品などの新需要開発などが主。
たしかに、そうした仕事面の取材は面白い。
しかし、それよりも強く感じたのは矢張り国民の活気であり、活力。
日本の20〜30代の若者は、かつての日本の高度成長期の、大変だったが夢も希望も大きかった時代を知らない。
経済成長で給料が上がってゆくという実感もなければ、国全体の溢れる活力も経験していない。
デフレ政策と高齢化で、チンタラしている社会しか見ていない。
本題とは別に、日本の全ての若者にこうした新興国で、最低3年間の経験を積ますべきではないかと痛感させられた。

最後は日韓中。「緑色戦争」
これは、中国の環境問題改善に対する日韓両国の取り組みの、あまりにも大きな違いを浮かびあがらせている。
私などは、日本の環境技術は世界一。
したがって、中国の環境改善には日本の技術が必要不可欠であり、黙っていても売れると考えていた。それは、とんでもない間違いであることをこのリポートは教えてくれている。

有名な中国紙「南方週末」の報によると、中国では大気汚染による呼吸器不全で年間30万人が亡くなっている。また、健康にダメージを与える水を飲んでいる人が3億人にものぼるという。
そして、究極の公害として問題になっているのが「ガンの村」。上流の工場の廃液で、ガンが多発している村が、いくつも報告されている。
日本だと公害問題で大騒ぎになるところだが、共産国家では封じこまれてきた。
しかし、このままでは世界から信用を失うと気付いた政府は、2006年から始まった11次5ヶ年計画で大きく舵を切った。環境汚染の克服を国家の最重要課題に掲げ、20兆円規模の予算を組んだ。
中国の環境市場は80兆円になるという試算もある。
そして、役人の人事考課に環境問題の取り組みを加え、怠慢な幹部はクビにしている。

この中国の大転換に対して、俊敏に反応したのが韓国。李大統領の主導で環境産業を、半導体、液晶に続く第3の輸出産業に育てるという目的を鮮明に打ち出した。
そして、いち早く「韓中共同研究プロジェクト」を立ち上げ、韓国のエリート官僚が中国の現場に足を運び、ご用聞き活動を活発化している。
韓国は、このプロジェクトを最大限に活用して現地の実態を徹底的に把握し、現地が求めている低コストの技術をどしどし開発してきている。
それだけではない。技術開発を中国の現地の企業と共同で行うので、中国企業は居ながらにして技術が学べる。つまり、技術の流失を怖れることなく中国企業とタッグを組んでゆこうというのが韓国の戦略。それを李政権が、国家として後押ししている。

韓国のエリート官僚が、メタンガスの噴き出している現場を調査しているところや、共同プロジェクトの具体的内容。そして、日本からみれば不完全と思える現場での処理。しかし、予算のない現場で少しでも前進を図るには、まず出来ることから行い、次第に技術力を高めていっている姿。
あるいは、中国側の一方的な決定で、タダ同然の価格での設備の搬入を余儀なくされている現場など、克明な取材が続く。

これと、対比的に技術は優れているけれど、高くて売れない日本の中小企業家の困窮。その孤独な努力の取材も、平行して行われている。
だが、片や国家を挙げて支援しているのに対して、日本企業のあまりにも孤独な姿。その対比につくづく考えさせられる。

民主党、自民党に関係なく、日本の政治力が本当に劣化してきているということが、中国の環境受注を巡る韓日戦争で明らかになっている。
このままでは、本当に日本はダメになるということを痛感させられる好著。



posted by uno at 09:38| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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