2011年11月05日

札幌市の3年間で279戸の先導事業の大きな影響


内地の人はほとんどご存じないが、北海道と内地の一部の住宅メーカーの間で注目を集めているのか先月発表された札幌市の「次世代住宅基準による先導的な住宅に対する補助金事業」。
どうも、「次世代」という言葉の印象が悪い。
というのは1999年に、当時の建設省が決めた 「次世代省エネ基準」 に対する悪すぎる印象が付きまとっているから。
なにしろ、首都圏以西のQ値は2.7Wでよいというユルフン。
これが12年たっても改正されず、いまだに 「次世代」 の名でふんぞり反っている。
次世代というからには、せめて半分の1.3Wか、あるいは関東以西のR-2000住宅の1.4Wであらねば、世界的に恰好がつかない。

そんなわけで 「次世代住宅基準」 と言う言葉には若干抵抗感があるが、内容的には面白い。
実質的には来年度からの3年間で、札幌市が2億円の予算をつけて279戸の先導的な住宅に補助金を交付してゆこうというもの。
この先導的住宅の性能は、北海道R-2000住宅の場合はQ値が1.2Wであったように、一本化されたものではない。
4種類の種類があるからややこしい。最低2種類ぐらいに絞った方がベターだと感じたが、絵内北大名誉教授を中心とした委員会が各方面の意見を集約した結果、4種類になったらもの。

●ベーシック    Q値 1.3W
●スタンダード   Q値 1.0W  換気以外の躯体だけでQ値は0.8W
●ハイ        Q値 0.7W  躯体性能だけでQ値は0.6W
●トップランナー  Q値 0.5W

このベーシックのQ値1.3Wというのは、北方型エコ住宅基準で 北海道では普遍化しており珍しいものではない。かつてのR-2000の北海道基準のQ値1.2Wを下回っており、R-2000住宅経験者にとってどうこう言うほどのものではない。サッシを含めて既存品で簡単にクリアーが出来る。 技術レベルの低い うるさ型の地場ビルダー用に、おまけに付けられたものだろう。

したがって、新設された基準はスタンダードの躯体性能だけでQ値0.8W、ハイの躯体だけでQ値0.6W、それにトップランナーの熱交を含めたQ値0.5Wという性能。
とくにトップランナーのQ値0.5Wという性能は、ヨーロッパにも見られない厳しい基準。
この基準をクリアーするのは、容易なことではない。
この基準が、果たして何を目的に設けられたのかを知りたいもの。
ともかく、「ドイツのパッシブハウスが目を回す」 ほどの厳しい内容と考えてよい。
ただ、気密性能としてはどれほどのものが求められているのか。
新聞報道を読んだ範囲では分からなかった。
願わくば、C値で1.0cm2/m2以上であって欲しいもの。

北海道の札幌以北東の場合、ノルウェーやスウェーデンよりも冬期の外気温度が低い。もちろんドイツとはくらべものにならない。
このため、ドイツから輸入した熱回収率90%という顕熱交換機は凍結してその機能が果たせなかった。
また、インヴェンダーの性能値の低さが学会で発表された。(詳細は後日に・・・)
帯広や旭川などの厳寒地で使える、熱回収率が90%と高く結露がしない熱交は、私の知っている範囲では輸入物の1社しかない。あとは60〜80%のものが多い。
そのような現実を踏まえて、スタンダードは躯体性能だけでQ値0.8W、ハイは躯体性能だけでQ値0.6Wという表示になったのだろう。

さて、この躯体だけでQ値0.8Wを達成するには、最低限U値が1.0Wのサッシが必要になってくる。
1.3Wのサッシを使ったら外壁の厚さが限りなく25センチへ近づく。
地場のツーバィフォー業者は、206の14センチ充填断熱にKMブラケットを用いての10センチの外断熱で問題なく凌げるが、困ったのは内地の住宅メーカー。
やたらと壁厚を厚くすることは出来ない。
しかし、従来のPVCのトリプルの性能はせいぜい1.3W程度。
このため、1.0Wに近いサッシ探しが始まった。
ほとんどのメーカーはいわゆる付け焼刃で、本腰が入っていない。価格だけに絞った乱暴なもの探しの殿様行脚が続いていると聞く。

いずれにしろ、内地では1.0W以上のサッシに無関心だった住宅メーカーが、札幌のたった279戸の補助金事業で目を覚まされた。
そして、日本の大手サッシメーカーの無策ぶりが骨身に滲みてわかった。
日本の大手サッシメーカーを相手にしていたのでは、これから求められる本当の省エネ住宅に対応出来ないことがわかった。
この札幌市でのサッシ騒動を機に、一部では今までとコンセプトの異なった新商品の開発を進めようとする動きもあるようだ。
上田札幌市長は、そういった意味で日本の産業界に好影響を及ぼした功労者になるかもしれない。

さて、スタンダードの躯体性能Q値0.8Wには、内地の住宅メーカーでもなんとか対応出来る。
しかし、躯体性能Q値0.6Wのハイとか、換気を含めてQ値0.5Wというトップランナーには、なかなか対応が難しい。
まず、サッシではU値が0.8W以上の性能が求められる。
これが可能な国内メーカーは、私の知っている範囲では現時点では1社だけ。
ユーロがバカ安値なので、ドイツなどから輸入すれば当面はなんとかなる。
しかし、このような円高ユーロ安が、永久に続くと考えることは出来ない。
政府と日銀はデフレ政策という愚策を根本的に改めて、円高防止に全力をあげてくれないと、日本経済は完全に沈没してしまう。また、農水産物や木材など林業の輸出もままならず、日本の地域格差の増大を食い止めることが出来ない。
ともあれ、札幌の279戸の補助金事業が突破口になり、0.8Wサッシ開発のインセンティブになれば大変に喜ばしいこと。

躯体性能Q値が0.6W、換気を含めてのQ値が0.5Wの世界となると、サッシを特別に良くしない限り外壁厚が30センチから40センチにならざるを得ない。
北海道の3-0-3研究会では、すでに206の14センチ充填断熱の外側に、30センチ近いロックウールの現場吹き込み方式で実績を上げている。
たしかに、いろんな工夫がなされており、価格的にもこなれていて頼もしい。
震度6強までの横揺れに対する耐震性はそれなりにあると考えられるが、問題は神戸や中越の川口町で見た震度7の直下型地震。
なにしろ、ホールダン金物が千切れたほどの上下動。
この直下型の烈震に対する本格的な研究はまだなされていない。
札幌市が30センチとか40センチの壁厚を求めるのなら、北大辺りにそれに相応しい耐震構造の在り方の研究依頼をすべきであろう。

ともかく、地震の心配のない北欧とか、ドイツ、オーストリアの実績を見せびらかすのは絶対に止めて頂きたい。
神戸や川口町の残酷なまでの直下型の被害実態を知らない人には、やたらに壁厚を語って頂きないと言うのが正直なところ。
原発の安全神話を信じたことが間違っていたように、ヨーロッパかぶれの人の耐震神話は絶対に信用してはならない・・・。

札幌市の補助金事業は、最上ランクのトップランナー方式には200万円与えられるようだが、あとの3タイプに対してはいくらになるのか。
また、4つのタイプに対して何戸の割り当てがあるかなど、細部については決まっていないようで、はっきりするのは年度内らしい。
補助金事業と言うのは、どこまでも起爆剤。
地場ビルダーがなさねばならないことは、この趣旨を正しく理解してイノベーションを起こすこと。
そして、補助金がなくなっても、ハイとかトップランナーとして走り続けられる体質を築き上げること。

しかし、長期優良住宅などを見ていると、イノベーションを忘れ、補助金政策にどっぷり浸かり、事前着工の続出や、申請図書と違う資材を使い実績報告をねつ造して利益を捻り出す悪質な手法も目立ってきていると聞く。
やたらと政府批判をする前に、自らの姿勢を糺してほしい。
R-2000住宅に対しては、一切国からの補助はなかった。公庫の特別融資枠もなかった。
しかし、ツーバィフォー業者は、誇りと信念でイノベーションをやり遂げた。
札幌市は、そのイノベーションの場を与えてくれたと考える企業しか、これを本当のチャンスにすることが出来ないであろう。


posted by uno at 13:47| Comment(1) | ゼロエネルギーハウス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
いつも楽しくBlogを拝見しております。

> インヴェンダーの性能値の低さが学会で発表された。(詳細は後日に・・・)

上記のような記載があったので、詳細の記事を待っているのですが、いつ頃にアップ予定でしょうか。
まだ、予定が立っていないのであれば、発表のあった学会や文献の情報を教えて下さい。
Posted by ゆーじ at 2012年02月03日 21:14
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