2012年01月20日

さようなら「CO2削減」。 こんにちは「ゼロ・エネルギー」


さる17日、建築会館で開かれた建築学会主催のシンポジウム。
お題目は 「2050年のカーボン・ニュートラル化を目指して 何をすべきか」 という抽象的なもの。
カーボンとは炭素。
ニュートラルというのは自動車のギアでお馴染みの中立的状態。
つまり、カーボン・ニュートラルとは、排出される炭素と吸収される炭素が同量の状態を指す。
国交省が、来年度には23億円の予算措置をして、「ゼロ・エネルギー住宅に1戸当たり165万円の補助金をつけたい」 と考えているようだが、このゼロ・エネルギーの方が消費者にとっては よほど分かりが良い。

建築関連17団体は、国交省などの意向を汲んで、「2050年までに全ての建築物をカーボン・ニュートラルにしましょう」 という提言を2009年に公表した。
この提言を内容あるものにするため、2010年4月に関連学会の関係者が委員となって、「地球温暖化対策アクションプラン策定委員会」 が組織され、今年の3月の完成を目指して @今後の方向性 A政策提言 B研究開発課題 C人材育成 D情報発信と横断的連携 E国際的連携 Fゼロ・エネルギー建築の事例収集、などの作業を行ってきた。
その大まかな方向がまとまったので、シンポジウムを開催してお披露目したもの。

正直いって、今回の @ 〜 E までの報告は大変につまらなかった。
その原因は大きく分けて2つある と感じた。
1つは、2050年までに全建築でカーボン・ニュートラルを達成しょうとする国交省の方針が先にあって、その時期の是非が論じられず、建築学会が単なる国交省の下請け機関化していること。
2つは、昨年3月の東日本大震災と福島第一原発事故で、CO2削減の根幹をなしていたエネルギー基本計画を、昨年6月に経産省は白紙撤回したこと。
そして、新しい基本計画の策定は今年の夏以降になると考えられている。
つまり、大きな前提条件が変わったのに、白紙撤回された基準に基づいての議論の帰結だから、どうしても信頼性と迫力に欠ける。
原子力発電に関する国の方針が決まっていない以上、発言者が思いつきの言動を並べても、とても建築学会の総意とは受け取れない。

◆2020年までに新築住宅の100%次世代省エネ化を達成し、2030年頃までには新築建築のカーボン・ニュートラル化を果たし、2050年には全建築物をカーボン・ニュートラルとする。

ヨーロッパをはじめとして、かなりの国が2030年までに全建築物のカーボン・ニュートラル化の方針を掲げ、具体的な方針として全ての建築物の省エネ性能の表示の義務化を打ち出している。
さらに新築住宅には厳しい断熱・気密基準を順守するように求め、数値を明示したロードマップを提示している。
これに対して、日本の方針は2020年までに新築住宅の全てを次世代省エネ基準に引き上げ、2030年頃までに全ての新築建築物をカーボン・ニュートラル化してゆき、2050年までに既存の建築物も改修してカーボン・ニュートラルにしてゆこうというもの。
実に40年間もの時間をかけた息の長い政策。
いかにも壮大な計画のように考えられるが、国交省の本音は カーボン・ニュートラル化をなるべく遅らせようと画策しているとしか考えられないもの。
大手プレハブメーカーや全建連・全建総連などの鼻息を伺っていて、いまだにユルフンの次世代省エネ基準ですら義務化しようとしない。

その結果はどうなっているか。
消費者は国交省の生ぬるい方針に従う気はサラサラない。 そして、プレハブなどの戸建て注文需要を避け、分譲住宅を選ぶようになってきている。
一定以上の規模の業者の分譲住宅には、Q値が1.9Wというトップランナーの基準が課せられている。
消費者にとっては、2.7Wの戸建て注文住宅を選ぶよりは、1.9Wという性能が30%もアップした安い住宅を選んだ方がベター。
かくして、大手注文住宅メーカーの工場は閑散としており、消費者の利益を真剣に考えない地場の弱小工務店の受注力が落ちている。
消費者の意向を無視し、サボっている者の当然の報い。 同情の必要は一切ない。

この状態を打破するには、分譲住宅の1.9Wに対抗するために、戸建て注文住宅の最低基準のQ値を1.5Wにすべきだと、建築学会から提言すべきと私は考える。
ところが、最近の建築学会は、あまりにも消費者の実態を知らなさすぎる。
フィールドワークが無さ過ぎて、机上の議論に明け暮れている。
これでは、国交省の単なる下請け学会と言われてもやむを得ない。
もちろん消費者は、建築学会に何一つ期待をしないということになる。

◆さようなら「CO2削減」。こんにちは「ゼロ・エネルギー住宅」

まだ正式に決まっていないが、来年度はカーボン・ニュートラル対策として経産省は70億円の予算要求をしており、国交省は1戸に165万円の補助金を与えて 「ゼロ・エネルギー住宅」 を1000戸以上建てるべく23億円の予算要求をしていると聞く。
今回の建築学会のシンポジュウムで大変に目立った点は、「CO2削減」 という言葉が印刷物の中には数ヶ所しか見当たらず、2人の発表者から 「今までCO2削減を余りにも叫びすぎた」 という反省の言葉が聞かれたこと。
CO2の削減 イコール原発の増設、オール電化の推進を容認するものであったということに対する反省からだろう。
したがって、どの学者先生も 「CO2の削減」 とは言わず、「カーボン・ニュートラル」 と言っているのは 経産省に対する抗議の意思表示だろう。 だが、カーボン・ニュートラルという言葉を使うことで自らの責任を転化しょうとしているようにも聞こえた。

そして、カーボン・ニュートラルという言葉よりも、国交省が進めようとしているゼロ・エネルギー住宅の方が、はるかに消費者に対するアピール力がある。
しかし、現時点で国交省がゼロ・エネルギー住宅を叫ぶのは、非常に危険なことだと思う。
なぜならば、次世代省エネ基準の低レベル住宅で、5kW以上の太陽光発電を搭載し、恰好をつけるためにHEMSをつければ、一応ゼロ・エネルギー住宅となるから。
こんなものが普及しても、地球のためにも日本の国民のためにもならない。
165万円の補助金は、太陽光とそれほど意味のないHEMSに消えてしまうだろう。
国交省は、ゼロ・エネルギーハウスを推進したと威張れるかもしれないが、国民の住宅の省エネ化は次世代基準という低レベルにとどまったまま。
そして千数百戸の住宅だけが国の税金の恩恵を甘受して、低所得者は太陽光発電の買い上げ価格の増大による電気代の値上げという差別化に苦しむことになる。

それと、大手住宅メーカーや家電メーカーが、競って開発しょうとしているHEMS (住宅エネルギーのマネージメントシステム)。
これは、家庭用電気のムダ使いをなくしょうというもの。
その狙いは結構だが、不必要な照明は、30万円もするシステムを開発しなくても消費者は自動的に消している。
誰も聞いていない時にテレビをONしたままだったり、コンピューターの電源をONしたままという者はいない。洗濯機や掃除機、ドライヤーは必要な時にしか使わない。
HEMSが入ったからといって冷蔵庫の電源をON、OFFはしない。
つまり、30万円も投資してHEMSを付ける目的は、冷暖房機器のコントロールが主目的。
局所冷暖房を大前提にして、ON、OFFすることが、最大の家電の浪費コントロールだと国交省をはじめとした役人と、日本の学者と一部の企業だけが考えている。

昨夜、空調業者の面々と話したが、ビル用からスタートした空調業者は、社員が帰宅する夜は空調を停止するのが常識で、誰一人としてそのことを疑ってはいなかった。
夜 空調を完全に切るから、冬期の室温は10℃以下になる。
それを朝の短時間に22℃までに立ち上げねばならない。
このため、大きな性能の空調機が必要で、送り出す風量も大きなものにならざるを得ない。
このため、とんでもない能力が求められ、イニシァルコストが高くなり、毎朝の強運転によるランニングコストもバカにならない。

このビルと同じ考えを、空調業者も住宅の設計士もそのまま住宅に持ち込んでいる。
人が居る時だけONして、人がいるところを狙って風を送り込むことが最高の技術だと勘違いしている大会社の大バカ者達。
そして、30万円を投資して、HEMSで人の居ない部屋の空調を消して回ろうと智恵を絞っている。
昔、「白熱灯は使わない時は消した方が良いが、蛍光灯だとやたらと消したり付けたりしたのでは電気代がムダになり、蛍光灯の寿命も短くなる」 という議論があった。
これが超高性能のLED照明だと、やたらとON、OFFしなくても良い。
同じことで、LED照明に匹敵する高性能な住宅をつくることこそがイノベーション。
次世代住宅の2.7Wではなく、Q値が1/3の0.9WのLED住宅をつくる。
そして、全館24時間冷暖房換気・除加湿を行う。
それでランニングコストが、個別クーラーをON、OFFして高速運転をするよりも安くしてゆくことこそが 産業人や学者がしなければならない仕事ではないだろうか。

自動車を考えてもらいたい。
1500ccの自家用車が5台あって、絶えず信号待ちで止まったり、急発進しているのが現在の個別冷暖房システム。
そうではなく、軽自動車1台で、24時間ストップすることなく時速40キロで走行するのがLEDに匹敵する超高性能住宅におけるセントラル空調換気・除加湿システム。
国交省が音頭をとり、建研の庭に建てられていた耐震性がやたらと弱いLCCM住宅。
建築学会の机上派は、泣きたくなるようなこんなチンケな住宅を応援している。
そこには、イノベーションのかけらもない。

国交省が考えているゼロ・エネルギー住宅の貧困な発想を打破するためにも、建築学会の奮起を心から期待したい。
太陽光発電とHEMSの以前に、建築人として果たさなければならない大きな仕事がある。

◆ゼロ・エネルギー、ゼロ・ウォーターの都市づくり

今回のシンポジウムで、一番面白く、ワクワクさせられたのが宇都宮大横尾昇剛先生の 「ゼロ・エネルギー建築の事例」 発表。
世界の先進的な動きが紹介されていて、この話だけを2時間は聞きたかった。
とくに面白かったのは、カナダのバンクーバーの都市づくり。
移民の流入が大きい都市だが、市はこれ以上電力や給水を増やすことは考えていない。
そのため、市は単にゼロ・エネルギーの看板を掲げているだけでなく、ゼロ・ウォーターにも取り組んでいる。
具体的には冬期は雨天の日が多くて太陽熱を取り入れることが出来ないので、排水から熱を得て地域暖房をしたり、道路の中心をなだらかなV字型にして雨水を集めて利用するなど、実に独創的なトライを続けている。 非常に面白い事例がいくつか示された。

しかし、白黒の写真ではその面白さが紹介出来ない。
出来れば宇都宮大を訪れて、横尾先生からカラー写真を借りて紹介するか、先生の発表論文が見付けられたら、改めて紹介することにしたい。


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