2012年02月10日

レストランチェーンの革命児・正垣泰彦の経営哲学


山口芳生著「サイゼリア革命」 (柴田書店 950円+税)

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住宅業界には、特別に基本的な経営マニュアルとか指針があるわけではない。
大手メーカー各社は、高度成長時代に需要の急拡大に併せて、自己流でそれぞれに規模を拡大してきた。
そして最近では、マーケットの縮小に伴って、既得権を守ることだけに窮々としている。
イノベーション意欲とか、海外に打って出るという意欲が全く感じられない。
このため日本の消費者は、世界一狭い選択肢の中に置かれている。

一方、地場のビルダーはそれぞれの地域で特色を出してやってはいるが、共通するポリシーとか経営の基本技術は持ってはいない。
常に、施主という消費者に接しているので、「お客様は神様」とまではゆかなくても、常に施主のことを考えている。
そして、トップの力量の範囲内で施主の要望に精一杯対応している。
自分の考えている「よい住宅」なるものを、「より広い消費者に届ける義務」などということは毛ほども考えたことがない。
甲羅に似合った穴を掘る。
そのことを批判しょうとしているのではない。
事業主としてではなく、サラリーマンとしてしか携わってこなかった者には本来発言権はないのだが、住宅というのは非常に息の長い商品。それを考えた時に矛盾を感じることがある。
最近では、平気で「200年住宅」などという言葉を弄んでいる。
サッシの寿命がせいぜい25〜40年。
外付けのサッシを取り換えるには、外装の仕上材の全てをとり外さないと不可能。
それなのに、200年住宅と平気な顔で言い、国交省もその発言を黙認している。
住宅は息の長い商品だから、消費者のために企業が長く存続させることが要諦。
そのためにはイノベーションを続け、若干で良いから企業を発展させて、次世代にバトンタッチしてゆく義務が地場ビルダ―にある。

日本の住宅産業は、戦後一貫してメーカー志向、工務店志向型。
40年前、アメリカの住宅産業を、産業人と一緒に視察・調査して、北米でオープンだったツーバィフォー工法を、当時の建設省、住宅金融公庫、杉山英男東大教授などの絶大な支援を得て、日本へオープン工法として導入することが出来た。
日本では戦後、オープン工法として導入されたものはこのツーバィフォーだけ。
そうした点では大きな意義はあったが、同時に導入しょうと図った「消費者志向型住宅産業」は、残念ながらついに陽の目をみることはなかった。
これが、今日の住宅業界の閉塞状態に結びついている。

一方、消費者志向型産業として、変革と拡大を続けてきたのが流通業や飲食業などのチェーン業界。
かつてのダイエーや西友をはじめとしたスーパーがその筆頭。
いまでもイトーヨーカ堂、ユニーなどをはじめとして錚々たるメンバーが大活躍。
食品スーパーの活躍も目立つ。
そして、チェーン店はスーパーだけに限らず、ドラッグストア、ホームセンター、デスカウントストア、家電・カメラ、衣料・スポーツ、100円ショップ、カー用品、家具などの流通業に広く波及している。
そして、フランチャイズ制度のもとでコンビニ、ファーストフッド、ファミレス、居酒屋、ラーメン・ウドン・そばなどの飲食業にも普及。
このほか、学習塾、住宅、ブック・オフ、宅配などあらゆる業種に及んでいる。

このチェーン産業の育成に決定的な影響を与えたのが、2010年7月に死去した渥美俊一氏。
読売新聞記者時代に独力でアメリカのチェーンストア経営ノウハウを学び、1962年にはチェーン店を専門的にコンサルタントする「ペガサスクラブ」を立ち上げた。
渥美氏のすごかった点は、最初に日本の代表的な小売業1300社を徹底的に取材してまわったこと。その結果、まともな経営者が少ないという経営実態を知った。
そこで、その中で消費者の方が「有難うございます」といって頭を下げて買いに来ている1%の店、
13社を選んで勉強会を立ち上げた。
日本の消費財の小売価格を半分にするイノベーションの開発を、最初から目的にしていた。
そのためには、売上を2倍とか3倍にするだけでは達成出来ないので、100倍を目標にした。
現状を否定して、全く新しい組織をつくらねばならないという意識改革を行ったこと。

ペガサスクラブでは、アメリカのスーパーの組織論を徹底的に研究し、3人のプロの育成から始めている。
まず、最初に必要なプロは、マーチャンダイザーと呼ばれる商品開発に精通した全能のプロ。
その次がコントローラーと呼ばれる日次決算が出来る経営数字に明るいプロ。
もう一人がエデュケーターと呼ばれる社員教育のプロ。
当時の年功序列のピラミッド型の会社の組織図では、考えられない組織論が展開された。
その組織論に13社が忠実に付いて行き、実績が上がると共に次第にメンバー数は拡大していった。
私が住宅ジャーナル時代に渥美氏とアメリカの住宅産業に関して情報交換を行ったのが1971年。
その年には、会員社数は1000社以上にも及んでいた。

サイゼリアは、正垣泰彦会長が東京理大の4年生の時に、アルバイト先の渋谷食堂に見込まれて、68年に千葉・市川市のパーラーの店を引き受けたことからスタートしている。
この時、正垣氏はすでに渥美俊一理論を読んでいた。しかし、工学系なのでレストランチェーンをやろうという発想は全然なかった。
ところか、引き受けた店が、地元暴力団の抗争で火事になり、全てが焼失。
大家は正垣氏を見込んで建て替えた店を、保証金なしで「貸してやるから、もう一回やってみな」と言ってくれ、母親が「苦労や問題は自分の成長になる。真正面から受けなさい」と励ましてくれた。
そこでヨーロッパ各国を旅してまわり、毎日食べても飽きなかったイタリア料理が気に入り、イタリアンの店として再スタートすることにした。

正垣氏は、渥美理論を読んでいたこともあって最初から生産性を中心に経営を考えた。
正垣氏がまず目指した生産性/人・時は、5000円。
労働分配率を50%とするなら、社員に500万円の給料を支払うには、一人当たり年間1000万円の粗利が必要。
これを年間総労働時間2000時間で割れば、生産性は5000円/人・時となる。
これを実現するために、すべての社員の動きをIE(インダーストリアル・エンジニアリング)で分析。
この科学的な作業効率分析が、企業カルチャーとして根付き、品質のばらつきとムダな行動を全職場から追放してきている。

そして、商品開発も正垣氏の言う「根っこからのマーチャンダイジング」を推進するために、白河市周辺の高原エリアに一大農業生産拠点を築いてきている。
その面積は280haにもおよび、野菜の生産と畜産を行っている。
この直営農場とは別に野菜の契約農家が332戸、稲作農家では114戸にもおよぶ。
自家農場をもっているのはサイゼリアとワタミぐらいしかない。
そして、紙数のため内容を省略するが、農業の生産性向上のために払っている投資は膨大なもの。それでも、農業部門の黒字化が果たせないと言うから、日本の農業環境は甘くはない。
それなのに、東日本大震災を契機に、仙台市若林区で塩害を受けた水田でトマトの水耕栽培を始めている。これは、単純な支援ではなく、ビジネスを持ちこむことで本当の復興に供しようとの考え。

かつて渥美氏は、サイゼリアを評して次のように著者に語っている。
「経営管理の仕組みに関して、同社は何度も壁に突き当たっている。上手くゆかないのは理論ではなく方法が間違っているからだと一貫して取り組んでいる会社は、同社以外にない」

「外食産業は、消費者のニーズが多様化したといって、新しい業態で新規客を追いかける者が多い。その中にあって、サイゼリアは新業態に見向きもせず、バカの一つ覚えで現在の業態に集中し、お客の支持を得て成長を続けている。これは、お客の評価は全て経営の仕組みの結果であるということを同社が熟知しているから・・・」

「経営とは経営管理であり、その経営管理を行うのは人。 サイゼリアは初期から千葉大の学生を採用し、実際にイタリアへ連れて行って食文化を体験させるなど、一貫して育てる努力をしてきた。そうした人材が生産性の向上やバーチカルなマーチャンダイジングの成果として現れてきている。同社は、外食産業のチェーンの中では日本一の人材の宝庫を持っていると言っていい。スカウトするならサイゼリアを狙うべき」。

こうして、1000のチェーン店舗の見通しが得られた時点から、同社は今までのレストランチェーンではなく、イタリアン系のファスト・フード店の展開を試みている。当面は2015年までに1000店舗を展開し、将来は1万店舗を構想。
このほかに、中国にはサイゼリアを約100店舗展開しており、将来は3000店舗まで増やして行きたいとしている。
インドをはじめ、東南アジア各国への出店の準備と人材の育成も着実に進んでいる。
このように、レストランチェーン店は日本だけでなくアジアでも成功しているのに、日本で何ヶ所かで開店したイタリアン系のファスト・フード店はことごとく失敗。
これに対して、正垣氏は、「うまくゆかないのは欲を出しているから。欲をなくしてあるがままに観察しないと法則は見えてこない。その法則が見えないのだよ」と、渥美理論の最優等生らしからぬ弱音を吐いている。

正直な話、私はサイゼリア大好き人間。
東京ビックサイトへ行くたびに、昼食は館内では摂らずナショナル館の前にあるサイゼリアまで足をのばし、辛味チキンかチョリソー、プロシュートで軽く赤ワインを賞味して、ミネストローネのスープとペペロンチーノなどで一時間休憩。午後から再び会場巡りかセミナーへ参加するのが常。
ご案内のように、イタリアには4種類の店がある。
・リストランテ(高級)
・トラットリア(大衆的)
・オステリア(居酒屋)
・バール(軽食)
私にとっては、サイゼリアはレストランではなくトラットリアかバール。
どんな田舎町にもあって、気軽に入れるトラットリアかバールのような気安さがサイゼリアにある。
イタリアン風の気安さから、いままでに何回となくオステリアとして、つまり夜の飲み会の場としてもビックサイトのサイゼリアを利用してきた。
価格も非常にリーズナブル。
1000円札1枚で、疲れた脚を休ませながら1時間の至福な時間を過ごせるのがとてもよい。
それが、駅の立ち食い蕎麦屋のように250円でスパゲティが食べられたとしても、10〜20分で追い出されるようなファスト・フード店だと絶対に行きたくない。
その肝心の消費者心理が、優秀なイノベーターである正垣氏ともあろう人が、わかってない様子。


posted by uno at 09:58| Comment(1) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
本質的な部分を取り上げていただき嬉しく思います。
枝葉の部分で恐縮ですが正式会社名は「サイゼリヤ」ですので訂正いただければ幸いです。
Posted by 元サイゼリヤ関係者です。 at 2012年02月13日 15:48
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