2012年04月15日

株主よりも、まず社員や顧客を大切にする会社


坂本光司著 「日本でいちばん大切にしたい会社」@AB (あさ出版 1400円+税)

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4年前に、この本が出版されたのは知っていた。
いち早く本屋で立ち読みした。
川崎の理化学工業や島根の中村ブレイス社など中小企業5社が紹介されていた。
前者は社員の7割が身障者で占めている特異な会社。後者は辺鄙な田舎にありながら義肢装具で日本全国に著明な会社。その存在とおおまかな内容は知っていた。
しかし、ビルダー仲間にとってはそれほど参考になる企業とは言い難い。
このため、あえて買うほどの価値がないと判断した。

ところが、書店にはいつまでも同じ本が並んでいる。それほどの名著でもないのにおかしいな、と思って手にとって見たら3となっていた。
つまり、4年の間に 同じ題名の本が3冊も出版されていたのだ。
帯を見たら延べで55万冊も売れていると言う。
早速、3を買ってきて読んだら、京都のMKタクシーを目標に未経験者の運転手育成で会社を一新させた長野の中央タクシーと、官公需の大型工事から小型の諸口工事と呼ばれる民需に切り替えた島根電工の奮戦記がやたらと面白かった。
これだとビルダーにとって大変参考になる。
そこで、あわてて1と2もまとめて買ってきたという次第。

著者は法大政策創造研の教授で、中小企業・地域経済・福祉産業が専門。
過去40数年間に、これはという中小企業を見つけては、北は北海道から南は沖縄まで、なんと6500社も訪れているという。
私は、ツーバィフォーのオープン化をはじめとしてR-2000住宅、パッシブハウスなど常に最先端の住宅にチャレンジしてきたので、全国のやる気のある地場ビルダーの名刺はかなり持っている。
だが、会社とかモデルハウス、あるいは現場を訪れたのはせいぜい150社程度。6500社というのはその40数倍。とても信じられない数字。
毎年150社以上を新規に訪問している勘定になる・・・。
ともかく、机の前で議論しているタイプではなく、脚で稼ぐフィールドワークの頼もしいタイプ。
こんなタフな研究者が、住宅関係にも居て欲しいと熱望するのだが・・・。
著者の経験によると、6500社の中で「大切にしたい」と考える企業が1割近くあるという。
つまり、600社は大切にしたい会社。
紹介するのはさらに絞って600社の1割としても60社。
今まで紹介されたのは1で5社、2で8社、3で7社の計20社。 ということは、最低でもあと6冊は続編が出版出来るという勘定に。
果たして、その中に地場ビルダーが含まれているかどうか ?
そういった興味はあるが、筆者の説く企業のあり方は、成功している中小企業の実態の裏付けによって単純明快なのが嬉しい。

産業界では、投機マネーの必要以上の暗躍もあって、「企業は株主のものである」 ということがあたかも正論であるかのように語られてきた。そして、短期的に利益を計上することが経営者の使命だとされてきた。
つまり、サラリーマン社長の4年ないしは6年の年期内に、どれだけ見かけ上の利益が計上出来るかで全てが判断される。
一頃は、GEのジャック・ウィルチの、「選択と集中」 を物真似して、「集中と当面利益が出ない部門の廃棄」 という短絡的な経営がもてはやされた。
当面利益が挙げられるものだけを優遇し、長期的な視点での判断が完全に喪失してしまった。
日本の産業界の停滞は、経営者がサラリーマン化したことと長期的な戦略が企業から失われたことにあると言えよう。
リストラが余りにも日常化し、働く人のロイヤリティが大きく劣化して、企業から輝きが失われた。

こうした悪しき風潮の中で、多くの中小企業主は 「会社は株主である親族のものだ」 と勘違いしている。 身内の飲食代の領収書を会社の経費で落とすことが、正当な節税対策であるかのように考えてもいる。
そして、業績が悪化すればまず経営者の責任が問われなければならないのに、身内以外の社員からリストラし、保身を図る。
こんな会社はどんな高い技術力を擁していようとも、どんな優れた商品を提供していたとしても、「企業は社会的なものであり、公器としての使命を発揮できなくなるので結局は潰れてゆく」 と筆者は断言している。

著者は、成功している中小企業に共通している思想は、会社はまず、@社員とその家族のものである。 Aそして外注先、下請け会社のものでもある。 Bその上で、顧客のものであり、C地域社会のもの。そして、最後に D株主のものだ、と説く。
筆者が担当している中小企業は、どちらかというとメーカーが多い。したがって社員とか下職が上にきているが、住宅業は物づくり業ではあるが基本的にはサービス産業。したがって、ビルダー会社は、「施主と社員と下職のもの」 という規定が正しいと思う。
いずれにしても、株主は最後にくる。

業績が伸びない企業は、その原因は会社の経営方針にあるのではなく、全て外部の責任にしている。そして、どの企業も5つの言い訳を用意している。
@景気や政府の政策が悪い。
A業態・業種が悪い。
B企業の規模が小さい。
C立地やロケーションが悪い。
D大企業や大型店が悪い。

筆者は、「景気は与えられるものではなく創るもの」 だと強調している。
お客がノドから手がでるほど魅力的で欲しいものを提案してゆけばいい。
それを提案するのに、企業の規模は関係ない。 ハイテクだろうがローテクだろうが顧客には関係ない。
お客が感動する物とサービスを創り続け、提案し続けてゆけばよい。
そうすれば、景気に関係なく企業は安定的に発展出来る。
会社の使命は、業績を挙げることでも成長させることでもない。
一時的な儲けよりも、社員や顧客、地域社会にとって一番大切なことは、「企業の継続」 だと筆者は力説。 継続のために、全社員によるイノベーションが欠かせない。
そうした会社こそが、「日本でいちばん大切にしたい会社」 だという。

さて、3冊で20社が紹介されているが、その中で私が個人的に参考になると思ったのが5社。
メーカーではカプセル内視鏡の長野のアールエフ社と東京・新宿の日本レザー。病院では有名な千葉・鴨川の亀田総合病院。電気設備機器の松江の島根電工。それとタクシーの長野の中央タクシー。
いずれも異業種だが、なかなか参考になる。
しかし、5社も紹介するとなると表皮的になってしまう。そこで、ビルダーと類似性の強い島根電工1社に絞ることにしました。

島野電光の現状を詳しく知りたいと、http://www.sdgr.co.jp  を今朝から何回もクリックしているのだが、どうしたわけか繋がらない。
同社は、電気工事、空調工事、水道工事、通信工事という設備工事を中心にした工事会社で、従業員は300人以上と大きく、今までは官公需を主体にして営業してきた会社。
資本金は2.6億円と、地方ではビック。しかし、社員持ち株制度はあったが、前の経営者は株を持ったまま辞めていったので、社員の持ち株比率は次第に少なくなり、次の新しい社長が誕生しても持たせる株がない。会社は社員のものではなく、前役員のためのものになっていた。
今から10年も前に、現陶山会長と現荒木社長が常務だった時に、このことに危機感を持って2つの大改革を計画し、準備を始めていた。
1つは、予想される官公需要の減退に対処するために諸口と言われている小型の民需の開発。
もう1つは、OBから株を買い戻して社員持ち株制度を機能させること。

ビルダーの場合は、新築需要が減少してくるので、リフォーム部門を充実させねばならないと言うことは頭で分かっているが、なかなか簡単にはゆかない。
同じことで、同社は2001年から諸口工事を増やすために、「困った時は設備相談室へ。お父さんの変わりにどんな小さな工事でも手伝います」 との新聞広告をうち、チラシを入れ、営業マンに飛び込み営業させたが、成果はほとんどゼロ。
官公需が頭打ちになり、このままでは会社の将来は暗い。
そんな04年に陶山氏が社長に抜擢され、荒木氏が副社長に就任した。前任者から、「いざという時は、リストラしかない」 と言われたが、2人は 「絶対にリストラはやりません。家計が苦しいからと、子どもや女房を売り、自分だけ飯にありつこうというのと同じことではないですか」 と、身体を張って先輩に抵抗した。

リストラを避けるためには何としてでも諸口工事を開発しなければならない。
だが、一般の顧客は、「エアコンの修理など、ゼネコンのハコモノの下請けをやっている会社には、高くて頼めない」という先入観がある。まず、これを打ち破らねばならない。
そこで、地元のテレビに、「住まいのお助け隊は、1000円から出動します」 というコマーシャルを打った。このコマーシャルは社員の手造りで、社員が 「たすけ隊、たすけたい ! 」と言いながら行進するもの。大変野暮ったいものだったが、愛嬌があって親しみが持てたので、ドンドン電話がかかってくるようになった。
しかし、実際に受注を始めてみると、100人いる営業が毎晩10時11時まで残業。
1人が抱えている案件は平均して2件なのに、なぜ残業をやっているのか?
調べてみたら、家庭ごとに要望が違う。そのため、その都度の見積りになり、慣れていないこともあって時間がかかる。そして、ようやく出来た見積もりを持っていってもご主人が不在。
後でご主人から電話があり、参上すると変更や追加工事があって見積もりのやり直し。
そして、やっと工事日程が決まるまで3日もかかっている。
諸口工事では5万円以下の工事が75%も占めている。その5万円の工事に何回も訪問し、3日も時間をかけていたのでは経費倒れ。

そこで、1回の打ち合わせで、その場で見積もりが出せるシステムと小型の機械を開発して全員に持たせ、営業行動の大幅コストダウンに成功した。
こうした試行錯誤の結果、2010年には30億円だった諸口工事が、11年にはなんと47億円と目標の50億円に近くまで急伸。
官公需と民需の比率も30 : 70 と、圧倒的に民需が多くなり、諸口工事できちんと利益が確保できるまでになった。
想像も出来なかった50億円という需要が、小さな島根県で6年間の苦闘の中で開発できた。
そして諸口工事は、社員に生甲斐を与えてくれた。
今までの官公需だと、仕事が終わるとそれでおしまい。ところが諸口工事は、ダイレクトにお客と接することになる。お客の感動が直に伝わってくる。お客の感動が、口コミとなりさらに新しい感動を生んでくるという好循環。
これを味わうと、諸口工事は病みつきになる。

そして、もう1つの課題であったOBからの株の買い上げ。
これをスムーズに行うために考えたのが、「額面1000円の株を3000円で買い戻す」 というもの。
「毎年10%配当を20年分先払いして3000円で買い戻します」 と言ったら、ほとんどが買い戻せた。その資金を用意するため、ホールデングスという持ち株会社を設立した。
こうして、現在ではその比率が、従業員持株会が36.7%、役員持株会が38.9%、ホールデングが16.2%、社外が8.2%にまで改善できたという。
もちろん2人のトップをはじめ役員が辞める時は、1000円で株を会社にわたしてゆくという内規もつけた。

2人のトップが、島根電工を文字通り 「社員のための会社」 に変えた。
そして、5年毎にトップを入れ替えてゆく計画もスムーズに進みそう。
「社長候補の人材はいくらでもいますよ」 という2人の英断が、雇用を守り新しい需要を生みだす会社に、短時間で見事に育てあげた。
紙数の関係で、同社がその電気や管工事の技術を活用して、地域の福祉施設などに対して行っているボランティア活動の詳細にまで触れることが出来なかったのは、残念。










posted by uno at 16:34| Comment(0) | 書評(建築・住宅) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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