2012年05月30日

心が洗われる「アジア写真集」と「単独行での鋭く美しい文章」


正直な話、立川図書館には読みたい本が比較的少なく、7年前に出版された本を期待もせずに選んだだけだったが・・・。
ところが、この著は先々週紹介した「ブータンしあわせ旅ノート」よりもはるかに内容が濃く、しかもカラー写真が綺麗で、文章は故 星野道夫氏に匹敵するほど美しい。

三井昌志著 「素顔のアジア」 (ソフトバンククリエーテブ 1600円+税)

P1050983.JPG

余りの感動に、著者のホームページを漁ったら、写真集はこのほかに、「アジアの瞳」「子どもたちの笑顔」「スマイルプラネット」「この星ははたらきもの」「美少女の輝き」などがあり、CD-ROMの電子書籍として「東南アジア旅行記」「インド一周旅行記」などが出版されている。
そのほか、「リキシャで日本一周」などもあり、またブログにはごく最近の写真集を含めて厖大な量が収録されていて飽きない。そして考えさせられる。

http://www.tabisora.com

東南アジアの旅行記では、今までは気楽に読める蔵前仁一氏ものか、椎名誠氏ものを主体にしてしか読んでこなかった。
アジアには参考になる美しい住宅が少なく、旅情と勉学心をそそるものがあまりない。どうしても北米とかヨーロッパ視察が中心になった。
つまりアジアは、一部の資材を除けば住宅業という商売とは結び付きにくい国々・・・。
だから、オチャラカな旅行記で息抜きをしてきた。
とくに椎名氏ものは、いつも同じような雑誌社などの仲間を伴っての行動で、場所が変わっても内容がほとんど変わらず、「ビールを! 」と叫ぶものばかり・・・。
・・・・ここまで書いて、昨夕から椎名誠著「水惑星の旅」(新潮選書) を読んでびっくり・・・。今までの椎名調の語り口の面白さを残しながら、グサリと抉った世界の水事情に対する新鮮な問題提起の数々。思わずこの著に差し替えようと考えたが、次週へ繰り越すことに・・・・。

ともかく、今まで読んだ東南アジア旅行記で心に残っているのは、いずれも単独行。
この著者も、カメラを担いでの単独行。
そして、この著書に集録されているのは2004年のスマトラ島沖大地震で津波の被害を受けたスリランカと スマトラ島の北西部のアチェ地方のほかに、内戦中のネパールとアフガニスタンの4ヶ国。
スマトラ島沖津波については、直後のテレビなどで被害情報は伝えられたが、人々がどのような思いで復興に励んでいるかという続報には接することがなかった。
著者はテレビのないラオスの田舎を旅していたので、1週間以上も津波のニュースを知らなかった。しかし、3週間後にスリランカを訪れている。
まして、内戦中のネパールやアフガニスタンへは、私などはどんなにカネを積まれても身の危険を感じて、絶対に訪れたくない。
それを、さほど気張ることもなく飄々と訪れ、貴重な写真とリポートをものにしている。
ナマの肉声と写真で、これほどまでに鮮明な印象をもたらしてくれる著書が出版されていたとは・・・。

著者が最初に訪れたのはスリランカの西海岸のコロンボ。そこから南下して壊滅的な打撃を受けた南端のゴール海岸へ。
津波が引いた後には死体がゴロゴロと転がっており、漁船が打ち上げられ、海岸から400メートルの家まで倒壊していた。それよりもひどかったのはツナミ泥棒。スリランカは、内戦時以外は比較的治安がよいといわれていたが、家へ帰ったらほとんどの家の貯金箱が奪われ、貴金属類がそっくり持ち逃げされていたという。
もともと豊かな土壌を持つ農業国で、食うものに困るということはない。外国からの援助や政府の支援で食料、衣料、医薬品は足りている。だが、家を建て直すカネと仕事がない。したがって昼はやることがない。暑いテントの中にいてもしょうがないので、ゴールで最も著名なホテルの周辺に子供が集まり、高級車がくると。「おいら、ツナミで家がなくなった。腹も減っている。50ルピーでも100ルピーでもおくれよ」 とせがんでいる。1時間粘っても得られるのはアメダマ数個。それでも暇つぶしのゲームとして、子供たちは新しい車がくるのを飽きずに待っている。

やはり被害が大きかったのは東海岸。
リゾート地としても有名なニラヴェリには3度も津波が押し寄せたという。
「3度目は、海そのものがごっそり1キロも移動してきたようだった」 と語るセルバラージさん。内戦時にはやっと商売が軌道にのったと思ったら言いがかり逮捕され、保釈に大金を巻きあげられたという。3年前にやっと内戦が終わり、漁船を使ってツアーガイドを始めて大成功。
しかし、「これからという時に津波に家も船もエンジンも全てが壊された。あとに残ったのはこの老いた身体だけ。しかし、内戦中はいつ終わるか分からないのでイライラする毎日を過ごしていた。それに比べると津波は一度きりのもの。壊れた家はまた建てなおせばいいだけさ」 といたって前向き。

著者は、津波の被害を知るには、震源地であるインドネシアのスマトラ島の西海岸のアチェ州へ行く必要があると考えた。しかし、アチェ州に入るには、政府の特別な許可証がなくては入れないことが事前に判明。アチェ州には政府を相手にテロ活動をしている過激なムスリムが多く、単なる旅行者に過ぎない著者に、政府が許可証を下ろす可能性は皆無。
しかし、許可証が得られないからと諦めるような旅人ではない。
そこで、東海岸にあるスマトラ島最大の都市メダンでバイクを借り、陸路を突破する計画をたてた。ところが、どの貸バイク屋も、「アチェに行くのならバイクは貸せない」 という。
メダンの住人はほとんどがクリスチャン。
アチェに津波が襲ったのは、ムスリムに対する天罰で、ムスリムは何をするか分かったものではない。最悪の場合は命を落とし、バイクが奪われるだろう。
だから貸せないという。
しかし、何軒目かの貸バイク屋でなんとか誤魔化してバイクを借りたが、途中で警察か軍人の検問に引っかかる懸念が大きい。
ところが、外国人がバイクで検問を突破するなどとは誰も想像もしなかったせいか、インドネシア語が何一つ喋れないのに、著者はジャングルを貫く一本道を抜けて、無事に取材を終えている。

著者の取材で光るのは、スマトラ島が内戦状態にあるということを証明してくれたこと。
スマトラ島の復興を支援するために、アメリカは軍隊を派遣した。ところがムスリムの過激派は、「アメリカが軍隊を派遣したのは、インドネシアの資源を横取りするためだ」 とのデマ宣伝を流した。
このため、高校生までもがそのデマを真に受けている。困った女教師が、偶然道で出合った著者に「生徒に日本の文化とアジアの旅の話をしてほしい」 とムリな講演の注文。あまり真剣なので引受け、日本のお茶の作法やスリランカの津波被害の話をした。
話が一段落した時、ボスとおぼしき女生徒から、アメリカ軍隊の派遣目的に対して、「資源横取りではないか」 という激しい質問が出された。女先生の講演依頼も、日本人の眼で客観的に話をしてほしいということが目的。
著者は、「イラクやアフガニスタンでやっているアメリカ軍の行為は僕も大嫌いで大反対。しかし、アチェを襲ったのは自然災害だし、ヨーロッパや日本をはじめアメリカもインドネシアの復興を支援する義務があります。交通事故が起こった時、皆がかけ寄って助けようとするよね。その時、1人だけが被害者の指から指輪をとろうとしたら、世界の人々がそれを黙って許すだろうか。少なくとも私は絶対に許さない」。

アチェのムラボー街は廃墟と化しており、手がつけられない状態だったが、周辺の村々の復興現場は陽気に働く人々の笑い声が満ちていた。スリランカと違って、どの顔も生き生きしていた。
ほとんどの人は、身内や親せきで亡くした人がいるはず。それなのに元気に笑っている。
筆者は何人かと話している中で、スリランカとアチェの違いが見えてきた。
それは、アチェの人にはやらねばならない仕事が一杯あるから。
幸か不幸かはわからないが、アチェには重機が一つもない。家の敷地からガレキを運び出し、用水路を塞いでいる倒木を全員で運び出し、壊れたモスクを補修しなければならない。片付けなければならない仕事が山のようにある。過去を振り返って溜息を付いてはおれない。
最悪だった状況から復興への確かな手応えを感じている。未来への希望が見えた時に、人々はどんな逆行にあっても笑い飛ばすことが出来る。そんなシンプルな事実を著者は教えてもらった。

ネパールは08年まで政府軍と反政府組織・マオイスト(共産党毛沢東派) の内戦状態が続いていた。
そして、その後も国論の統一は得られていない。
そのネパールへ04年に1人で旅をしていた著者は、手榴弾を手にした2人の若いマオイストとバッタリと出会い、1時間以上も話をしている。
その内容が大変に面白い。

また、04年の5月にはパキスタンからカイバル峠を越えてアフガニスタンに入り、3週間をかけてバーミヤンをはじめとして北部の街を陸路で横断してイランへ抜けている。
この時期にアフガニスタンの陸路を横断するということは、正気の沙汰ではない。ソ連軍の破損した戦車があちこちに点在しているし、警察に補導されたりしている。
下手な冒険物語よりも、この本の方が何倍かワクワクドキドキさせられる。

この本は、単なる写真集ではない。
著者の人間好きという好奇心が、これほどの感動をもたらしてくれるとは・・・。
一読の価値あり。


posted by uno at 05:53| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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