2012年07月10日

新耐震基準は人命を守るもので財産を守るものではない !!


島本慈子著 「大震災で住宅ローンはどうなるのか」 (筑摩書房 1400円+税)

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今から17年前の阪神・淡路大震災で、住宅ローンを組んだ住宅が倒れたり、焼けたり、あるいは買ったばかりのマンションが傾いてしまったという被災者が生み出された。
つまり、「家が消滅してしまったが、住宅ローンだけが残った」 という戸数は、著者の推計によると1万5000戸にも及ぶ。
こうした被災者は救済されなかった。
このため、2重債務者という重荷を背負させられた。

地震国の日本列島には、住宅金融公庫の資料によると2010年度末で175兆円という巨額のローン残高が残っている。
今度の東日本大震災では、初めて残ったローンの返済に窮する被災者のために、個人版私的整理ガイドラインが新設された。
金融庁が岩手、宮城、福島の3県に所在する銀行、信用金庫、信用組合にヒアリングした結果では、2011年8月末で住宅ローンの返済を一時停止している件数は4576件にのぼっているという。
これとは別に、住宅金融支援機構が、東日本大震災の被災者に対して、「返済方法の変更」 に応じている。その件数は2011年11月末で約3300件という。

今度の大震災で、2重ローンに対する一般の関心も高まった。そこで2011年6月17日の関係閣僚会議で、以下の方針がまとめられた。
「個人レベルで見れば、震災で全ての資産を失い負債のみ残されたという事例は過去にも数多く見られる。そうした被災者が苦しみに耐え復興を果たしてきた事実は重く考えねばならない。また、今次の様々な被災者間の公平確保にも配慮しなければならない。それでもなお、今回の復興は長期間に及ぶと見込まれるので、政府としても可能な限りの対策を準備する必要がある」 として、「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」 に基づき、申し出のあった人に対して個別にローンの減免を検討することにした。

しかし、筆者の調査では、2012年3月16日の時点で、ローン減免の成立はまだ3点しかないという。そのうち2点は自動車ローンで、住宅ローンの減免は1点だけだという。その事例は岩手日報の記事によると、以下だという。
減免を受けた人は、震災で350万円の収入が半分に減った。津波で家が流されたがローンが544万円残っていた。地震保険に入っていたので750万円が入り、受け取った義捐金と生活再生支援金が300万円残っていた。この外に土地の売却金が100万円。計1150万円のうち800万円を手元に残し、250万円を住宅ローンの返済に充てた。そして194万円は免除され、ローン残高はなくなったという。
この一例だけで、この制度を云々することは出来ない。金融機関が返済猶予している例が多いので、ローンの免除が本格化するのはこれから。
しかし、一つの事例が出てきたことは事実。 しかし、この事実を知った阪神・淡路の被災者の気持ちは複雑だという。

今回の東日本大震災は、津波による被害は大きかったが、地震そのものによる被害は少なかった。
阪神・淡路大震災では、1981年の新耐震基準により建てられたマンションが3084棟あったが、そのうちの10棟は大破している。
新耐震基準で建てられていることを強調し、セールスマンは 「新耐震基準で建てられているので、震度7の地震がきてもビクともしません」 と語っていた。それが、大破した。これは2005年の福岡西方沖地震の場合でも同様な被害を出している。
そして、ほとんどの入居者は、「新耐震基準だから、わが家は絶対に安全だ」 と考えている人が多いと言う。
しかし、新耐震基準と言うのは、「倒壊しせず、人命が守られる」 だけのものでしかない。
つまり、即死しないだけで、財産までは守ってくれない。
この認識の低さが、今でも消費者とビルダーの両方にある。
倒れさえしなければ、ビルダーは義務から免責される。 液状化で大幅に家が傾いても、大手のデベロッパーは責任をとろうとしていない。

「新耐震基準を守っているから安心だ」 という消費者の心理が、地震保険へ入る必要性を感じなくさせている。
ご案内のとおり、火災保険に入っていても、地震による火事や津波でやられた場合は、一切保証されない。地方の場合は類焼の危険が少ないが、大都市の場合は地震で潰れるよりも、類焼で焼失する可能性の方が高い。
それなのに、地震保険への未加入率は、筆者によると43%にも及んでいるという。
「新耐震基準をクリアーしているから大丈夫だ」 という誤った安心神話が横行しているから。

それにしても、神戸の木軸もRC造もひどいものだった。
倒れて当たり前という無筋コンクリートの基礎や、いい加減なスジカイの住宅が乱立していた。
これに対して、同じ震度7という直下型の烈震に見舞われた中越の場合は、豪雪地ということもあり、高床のコンクリート工事がしっかりしており、しかも太い柱とスジカイを採用していたので、神戸のような惨状を晒してはいなかった。
しかし、2500ガルという信じられない縦揺れを経験した川口町の田麦山と武道窪のウルトラ烈震地。
なんと太い柱とスジカイを使った住宅の90%が倒壊していた。
一部を除いて、間違いなく新耐震基準をクリアーしている住宅。それなのに90%が倒壊。
そして、倒壊を免れた住宅は、外壁に構造用合板を用いたスーパーウォールの住宅だけだった。
それ以外のツーバィフォーやプレハブが採用されていなかったので、スーパーウォールだけが目立ったという次第。

ところが、確かに倒壊はしなかったけれども、そのスーパーウォールの高気密性は失われていた。
今までは、外を走る車の騒音は全然気にならなかったのに、地震のあとは五月蠅くて眠れない。
命と財産は守れたのだが、「快適さ」 が喪失した。
そこで、改めてビルダーの役割の大きさに気がつきました。
つまり、「高気密・高断熱」 を謳い文句にしている住宅の場合は、震度7の直下型の烈震に遭遇しても、気密性を損なわないだけの耐震性を持っていなければならない。
つまり、鉄筋コンクリート造では、新耐震基準に到達するのがやっと。
今回の東日本大震災でも、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の多くの建築物や交通機関の諸施設がやられている。
建築業界は、鉄筋コンクリートの能力に準じて耐震性を定めている。
しかし、高気密・高断熱住宅の場合は、新耐震基準ではダメ。建築基準法の1.5倍の耐震性を持った3等級より上の性能を確保してゆく必要性がある。
そういった基本的なポイントについては、この筆者は触れていません。
建築の専門家さえ触れることが出来ないことなので、やむを得ないと言わざるを得ない。

今年の4月18日に、東京都はマグネチュード7.3の直下型の地震が襲った場合は、死者が今までの1.5倍の9700人、負傷者は14万7600人、帰還困難者はなんと516万人以上になるという予想を発表した。東南海・南海地震とともに、その恐ろしさを教えてくれている。
この本は、4月25日に発刊されているので、その新しい資料に基づいたものではない。
しかし、東京直下型地震による住宅の被害を次のように記述している。
●全壊・全焼住宅      85万棟
 ・うち揺れによる倒壊   15万棟
 ・液状化による倒壊     3.3万棟
 ・がけ崩れによる倒壊    1.2万棟
 ・火災による焼失     65万棟
●午後6時発生で風速15m  148万棟
 ・うちローン返済中    16.6万棟
 ・地震保険未加入      6.6万棟

そして、根拠は怪しいが、東南海・東海地震の場合の予測として下記を挙げている。
●全壊・全焼住宅    33〜36万棟
 ・うち揺れによる倒壊   17万棟
 ・液状化による倒壊     8万棟
 ・津波による倒壊      4万棟
 ・がけ崩れによる倒壊    2万棟
 ・火災による全焼    1〜4万棟
●夕方5時に発生した場合 57〜63万棟
 ・ローン返済中     6.8〜7.5万棟
 ・地震保険未加入    2.7〜3万棟

ともかく、東京直下型の場合は、76%が火災による焼失。
と言うことになってくると、わが家がツーバィフォーで如何に耐震性・耐火性が高くても、狭小宅地の場合は焼失によって家を失い、ローンが残るということになりかねない。
そして、超高層マンションの避難などの面でも大きな課題が残る。

ともかく、考えることを止めたくなるほどの大問題。


posted by uno at 12:34| Comment(0) | 書評(建築・住宅) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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