2012年08月10日

ハイビジョンカメラと宇宙飛行士が捉えたスプライト、オーロラ、流星の謎


NHK取材班編著 「宇宙の渚  上空400kmの世界」 (NHK出版 1500円+税)

渚の著書.JPG

アメリカ、ロシア、日本など15ヶ国が1998年から共同で建設に着手した国際宇宙ステーション (ISS)。 2000年11月からは各国の宇宙飛行士3人が、交代で数ヶ月の長期滞在を始めている。
今年の7月15日から11月まで、星出彰彦氏が2回目の長期滞在に挑んでいるが、最初の頃の宇宙飛行士の仕事はステーションの建設が主目的だったので、ほとんどが軍人か技術者に限られていた。
その中で、長期滞在チームとして28チーム目となる2011年6月8日にロシアのソユーズに搭乗し、5ヶ月半 (167日) という日本人として最長の宇宙滞在を経験したのが、医師出身の古川聡氏。
その医師としての古川氏が書いた「宇宙へ出張してきます」 (毎日新聞刊) は大変に面白かった。
重力の無い宇宙で実感した下半身ダイエットや、直ぐに満腹感を覚えたり、尿意が突然襲ってくる原因の分析。さらには地球に帰還した直後に、自分の身体の芯がどこにあるか分からないフニャフニャの軟体動物化した経験談は、今まで誰も書いていなかった新しい視点で非常に参考になる。 (8月17日付の「独善的週刊書評」 356号で紹介する予定)

もっとも、この本は毎日新聞社の3人の記者が中心になって書いている。
ところが、記者の書いた部分は一般的な話でちっとも面白くない。 面白かったのは古川氏の体験談。しかし、古川氏の医師として体験談以外の、肝心の仕事の話は省略されていた。このため、たいした仕事はしていなかったのだろうと、素人の私は浅はかにも考えていた。
ところが、そうではなかった。
実は2009年夏に、NHKの技術部がメーカーと共同で小型の超高感度ハイビジョンカメラを開発していた。このカメラを宇宙へ持って行って、地上400キロメートルの宇宙ステーションから、謎とされているスプライト現象、オーロラの実態、それに流れ星が発生する決定的な瞬間を撮影するプロジェクトが宇宙航空研と共同で開始され、カメラの改善作業が進められていた。
このカメラを操作し、科学的な貴重なデータを撮影することが、古川氏の最大の仕事の一つだった。

渚というのは、地上では海と陸の境界。
陸と海は隔絶されているように見える。しかし、実は多くの生命が渚という舞台を活用している。
海から川へ遡るウナギやアユやサケ。 あるいは淡水と海水が交わる汽水地域で採れる多くの魚貝類。
さらには新月のあと波打ち際で産卵するクサフグやカラフトシシャモ。 
陸の砂に産卵するカメをはじめ、波打ち際まで歩いて行って卵を海に流す陸カニなど、多くの動植物は渚に強く係わっている。
それだけではない。河がもたらす鉄分や植物プランクトンが、どれほど海の生物にとって貴重なものであることか・・・。

それでは、地球と宇宙の境界、つまり渚はどのあたりだろうか?
あとで詳しく説明するが、地球へ落ちる稲妻とは別に、宇宙へ向かって上がってゆくスプライトと呼ばれている稲妻現象が知られるようになってきた。それが、地上40キロから100キロメートル付近まで到達していることが、日本の高校生らの活躍で確認されている。
一方、オーロラの高度を計測したのがノルウェーの数学者のスティマー教授。
教授は自分から30キロ離れた地点に別の観測者に待機してもらい、電話で「セーノ」の掛け声でオーロラを撮影してその高さを測定した。 オーロラがもっとも明るく感じるのは100キロメートル辺りで、時には500キロという高さにまで現れると観測している。
また、流れ星は宇宙の塵が地球を包む薄い大気に突入して光ると考えられている。その高度は120キロから90キロの範囲と考えられている。

つまり、地上50キロから500キロくらいの範囲にいろんな天体現象が出現する。
この範囲が地球と宇宙を分ける部分。
国際宇宙ステーションの位置は地上400キロメートルで、地球と宇宙をわける最上部。
これらの範囲をNHK取材班は、「宇宙の渚」 と命名した。
その宇宙の渚で起こるスプライト、オーロラ、流れ星の発生とその規模、原因などを超高感度のハイビジョンカメラで捉え、科学的に立証しようというのが今回のプロジェクトの目的。
その撮影を、古川宇宙飛行士が担っていたということ。

古川宇宙飛行士の毎日は多忙極めている。 ハイビジョンカメラの撮影のためだけに宇宙ステーションへ行ったわけではない。いくつかの仕事の一つとして撮影があったということ。
「夜の地球の熱帯周辺で、大規模な雷が発生している」との連絡が古川飛行士から地上にあった。 
雷雲を探索し、スプライトが起こる可能性を予想するのは地上の仕事。 その日の中央アフリカからイスラエルへ向かう途中に、まばゆい雷が発生していることを宇宙ステーションへ伝えた。 メッセージを受けた古川飛行士は、時間をヤリクリして展望窓・キューポラの窓辺に構えた。
そして、カメラはほんの一瞬だったが赤い奇妙な光を捉えていた。
映像を確認すると、ひときわまぶしく雷が光った瞬間、そのはるか上に噴水か朝顔の花弁のように、上部が開いた赤いスプライトを捉えていた。宇宙からハイビジョンで捉えた最初の鮮明な映像。
これをきっかけに、古川宇宙士は他の場所でも赤い閃光を何枚となく捉えた。
分析の結果、この赤い色は宇宙の渚を漂う大気中の窒素分子が発生する光だということが分かった。

それにしても、雷雲から宇宙に向けて放出される電気エネルギーの目的は何か?
単に光を放っているだけなのか?  それとも何か役割をはたしているのか?
古川宇宙飛行士の話によれば、「昼の地球の大気層は、白い濃い青のゾーンとして地球を取り囲んでいることが分かる。夜になると、大気の縁が光る大気光のベールの存在が良く分かる。つまりこの大気光が、宇宙から押し寄せる大波から地球を守っているのではないか・・・」とのこと。
そこで地上組も飛行機でスプライト撮影を強行し、見事に成功を収めている。
そして、それらの結論をまとめれば、次のようになる。
「スプライトとは、雷雲と宇宙の電気の溜まり場の間を電子が移動する際に、その道筋が赤く光って見える現象。そして、ひとたびスプライトが起こると、巨大な送電線が雷雲から大気光あたりまで結ばれ、この送電線で大量の電気が宇宙の渚に向けて流れ続ける。地上の雷雲が発電機だとすれば、宇宙の渚に横たわる電気の溜まり場は、畜電池のようなもの」。

ところが、最近になってテキサス大のティンズレ―博士の驚くべき学説が注目を集めている。
その学説とは、「地球の天気は、宇宙の渚によってコントロールされている」 というもの。
この詳細は省略して結論だけを記述。関心のある向きは是非とも本著を読んでいただきたい。
銀河で寿命を終えた星による大爆発で、強い銀河宇宙線が宇宙の大海原を渡り宇宙の渚にも飛び込んできた。この飛び込んだ跡に電気が通り易い通路が生まれ、電気がどっと地上に向かって流れ、雲が静電気を帯び、雲粒は上昇気流によって高くまで運ばれた。その結果、寒波の原因になった強力な低気圧が強力に発達した。
2010年の冬、イギリスを中心にヨーロッパ北西部一帯を襲った30年ぶりの大寒波の原因は、宇宙の渚の大気光の綻びに原因があるというのだ。
もはや気象学は、地球の大気の対流だけを見て判断すべきではなく、宇宙からの影響も考慮すべき時代になったらしい。

次はオーロラ。 オーロラが現れるのは、南極と北極の近くを通る夜だけ。
しかも、宇宙ステーションの軌道は北緯51度から南緯51度あたりまでしか行かない。カナダ北部とオーストラリア南沖を通過する長くて30分間。
その時、オーロラが必ず現れてくれるという保証はない。
古川宇宙士がオーロラと初めて出会ったのは、宇宙ステーションでの生活をはじめてから1ヶ月も過ぎてからだった。 
ともかく、オーロラというのはとてつもなく大きい。 1000キロメートル以上にわたって拡がっているという。1000キロというと東京から九州の五島列島までの距離。それがリング状の形をしている。
オーロラはなぜリング状に輝くのか?
これは、「宇宙渚を舞台にした太陽と地球の激しい攻防のドンパチ帯」 という性格だから。

太陽は、光と熱を与えてくれるかけがえのない生命の素。 
しかし、一方では「太陽風」と言われる恐ろしい風が常に吹きつけている。 もしこの太陽風が地球を直撃すれば、すべての大気をはぎ取られ、吹き飛ばされてしまうほどの暴風。
有難いことには、地球にはこの暴風をブロックしてくれる楯がある。 それが「磁場」。
巨大な磁石である地球のまわりには磁場があり、太陽風を磁気圏の外へ吹き分けてくれている。
しかし、これで安心だと思っていたら、磁場の夜側の赤道面に「プラズマシート」と呼ばれる長い太陽電子の溜まり場があることが分かった。

太陽風と磁場.JPG

ここに電子が忍び込み、太陽電子の前線基地となっている。
そして、何かのきっかけで、忍び込んだ電子はプラズマシート上を地球へ向けて突進を始める。
そこで再び待ち受けるのが地球の磁場。 
電子をプラズマシートから引き離してしまう。引き離された電子は磁場のバリアに沿って北極と南極の上空に降り注ぐ。
磁場は北極と南極をリング状にぐるりと取り囲んでいる。この磁場に沿って飛ばされた電子はオーロラをつくるため、オーロラはリングの形になる。
このように、太陽電子は地球の磁場によって遮られている。
それでは、オーロラにはなぜ緑色と赤色があるのだろうか?
これは、磁場以外に、2重にも3重にも太陽電子の侵入を防いでくれている証拠だという。

太陽電子から最終的に地球を守っているのは大気。
磁場の働きで進路を曲げられて北極や南極へ追いやられたリング状の電子。
それが地球に近づこうとすると、高度200キロから500キロメートルに存在する酸素がこれを受け止め、赤い光に変えて放出して電子を無力化する。
しかし、エネルギーの強い電子は高度100キロメートル辺りまで侵入してくる。この電子も酸素が受け止め、無力化する。そのとき、酸素は緑色の光を放つ。
さらに強い電子は高度80キロメートルまで侵入してくる。この時は、窒素が電子を受け止め、ピンクの光を放つ。
つまり、侵入する電子のエネルギーと侵入度の高さによって、働く役者か異なり、オーロラは色を変えて消滅する。

しかし、磁場と酸素と窒素が太陽電子に常に勝利するということではない。
古川宇宙士の撮影した中にも、北米の上空で、緑のオーロラの下部のピンクのオーロラが踊り狂っているものが見られた。これはオーロラ爆発と呼ばれ、太陽の爆発の影響を受けたもの。
1899年3月13日、カナダのケベック州全体が大停電に襲われた。この停電は9時間にわたって続いた。
原因は磁場を変動させたオーロラのジェット電流。
2008年にNASAが発表した報告書では、もし大規模な太陽嵐が地球を襲ったら、アメリカだけで350ヶ所以上の変電所が被害を受け、その被害総額はハリケーン・カトリーナの20倍以上になるという。
ネットや携帯電話、カーナビが普及した現代では、その被害は天文学的な数字になるという。
そういった文章を読むと、オーロラはロマンチックな幻想現象ではなくなり、悪魔の呪いのように考えられて来るから不思議。 

最後は流れ星。
私は小型トラック大の隕石が、大気に突入して急激に燃えることによりあんな目立つ光を発するのだろうと考えていた。これはとんでもない誤り。
大きな石を2000℃以上に加熱しても、赤い光はだすものの100キロも離れた地上から確認出来ない。
まず、大きさ。
私どもがいつも目にしている流れ星の大きさは、直径1センチにも満たない0.6センチ程度の宇宙のチリにすぎないという。
そんな小さなチリが、なぜ100キロ先まで光って見えるのか?
これを説明すると長くなりすぎるので、やめた。
つまり、チリが燃えて発する光ではなく、チリが大気と激しく衝突することによって高温となって蒸発したガスと、それと共に回りの暖められた大気がプラズマとなって発する光だという。
この説明では、さっぱりわからないはす。
プラズマ状態とはどんな状態なのかということか分からないと謎は解けない。是非1500円+税のこの本を買って頂くしかない。
科学音痴の私だが、この本は隅から隅まで面白かった。

そして、宇宙のチリから地球の生命が誕生したという話は、説得力を持っていた。
忙しい人ほど発想の転換のために、一読をお薦めしたい。



posted by uno at 06:02| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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