2012年09月05日

負債処理に全生命をささげたラストバンカー・西川善文


西川善文著 「ザ・ラストバンカー」 (講談社 1600円+税)

表紙写真.JPG

昨年の10月に出版されたこの本。早速買って読み、深い感銘を覚えた。
当然、昨年の下半期のベスト10に名を連ねるはずだった。ところが、どうしたことか、この著書名を記録帳に控えるのを忘れていた。 
そして、今年に入ってビジネス書大賞をとった。 当然のことだと考えていたのに、上半期のベスト10からも外すポカをやってしまった・・・。
どうも一人でやっていると、時折このような大失敗をやらかす。
今までだと、誰かが間違いをチェックしてくれた。 とろろがSOHOの最大の欠点はチェック機能が劣っている点。
プランづくりでも、時折信じられないポカを犯すことがある。
この著の2回にわたるベスト10漏れは、ポカの代表的な事例。

銀行物語で卓越して面白いのは、全5巻からなる高杉良著 「小説・日本興業銀行」。
この著が面白いのは、高杉良という作家の筆力がすぐれていたからとは言えない。
敗戦で打ちひしがれていた日本の産業界を蘇えらせようと、自由闊達で日本を支えるという気概と誇りと使命感を持った傑出した人材を集めた企業の中の企業。
財界の鞍馬天狗と異名をとった中山素平をはじめとした人間味のあふれる上司に、ついて行こうと必死になっていた部下たち。異常なまでのハードワークと充実感に満ちた職場。
このようなリーデング銀行が存在したからこそ、この小説は読む者に感動を与える。
しかし、バブル期を迎えてからの興銀には、かつての輝きは失われた。
住専問題や清水一行著「女帝・小説 尾上縫」に代表されるイカサマ融資。
そして第一勧銀、富士銀との合併により誕生したみずほ銀行に、かつての日本興銀の面影を探すことは不可能。

これに次いで面白かったのは、戦前の三井銀行頭取・池田成彬を取り上げた江上剛著「我、弁明せず。」
この著の概略は、7月5日付の「2012年上半期の面白ベスト10」の4位に取り上げているので参考にしていただきたい。
これ以外で、銀行の内幕を書いた本は腐るほどある。
ともかく、バブル発生前までは、銀行があらゆる産業界を支配していた。どの宴会場でも、床柱を背負う正座に座っていたのが銀行マン。
銀行マンの動向を書くことが、即産業界の動向を書くことと同意義だったこともある。
しかし、バブル崩壊以降の銀行マンの行動は目に余る。
私自身も銀行のボンクラ派遣社員に、優良会社を倒産に追い込まれると言う苦汁を舐めさせられた。
住宅会社という実務に疎く、新しいイノベーションに対する理解力とか、経営を革新する技術力をほとんど身につけていない低能な者ばかり・・・。
そんな銀行マンを主人公にしても、面白い小説が書けるわけがない。
正直いって、この20年来の銀行小説には学ぶものがなく、飽き飽きしていた。

ところが、このバブル崩壊期以前から、住友銀行の安宅産業問題、イトマン事件をはじめ、バブル崩壊後の不良債権処理。 明けても暮れても尻拭いに全責任を負わされてきたのが元住友銀行の西川善文頭取。 
この時期の頭取は、そう言っては悪いがいずれもサラリーマン重役。 責任をとろうという前向きな姿勢は見当たらず、専ら逃げの姿勢ばかり。
そして、タスキ掛け人事と称して、もっぱら既得権の保持に専念。
銀行には、これほどまでに人材が居なかったのかと、 心から実感させられた時期。
その中にあって、一貫してポリシーを貫いた唯一が、悪名高い住友銀行という大きな負債を、一人で背負いこんだ西川善文氏。
「不良債権と寝た男」 という異名をとったのは、絶対に逃げなかったから。
そのことの大きな意義と暗黒の時代の実態が、この著にはてんこ盛り。 だから面白い。

最初に問題になったのは安宅産業。
今の若い人には安宅産業といってもピンとこないだろう。当時は総合商社として10社の名が上げられており、総合力では安宅が9位にランクされていた。
しかし、鉄鋼部門や水産、木材関係は強かった。
私は当時建材関係の新聞社に在籍していたので、伊藤忠と安宅を無視しては木材や建材業界を語れないことを知っていた。安宅は上場していた安宅建設工業、トーヨド建設をはじめ、安宅地所、安宅木材やパルプ、安宅建材、日本ハードボードなどが強く、建築・建材部門は総合商社の中では3本の指の中に入ろうという勢いだった。 先輩記者が同社へスカウトされるなど、鼻息が荒かった。
しかし、基幹部門の石油部門が弱かったので、三光汽船と組んで中東の石油をカナダで精製し、アメリカへ売るためにNRCという会社を設立していた。 ところが第一次オイルショックで中東石油の価格が暴騰し、NRCは700億円以上の赤字を出してしまった。
これが毎日新聞にスクープされたのは1975年の12月7日。
それだけでなく、オイルショックにより安宅の負債総額は1兆円にもおよぶとされた。

当時は、日本経済を防衛するためには安宅産業を倒産させてはならなかった。絶対に守らねばならない使命が銀行に課せられた。一番ベターな方法は住友商事が安宅を吸収合併することだった。住商の弱い繊維、水産、木材などがその合併によって補完出来る。しかし、住商は住金という鉄鋼会社を持っており、安宅の抱えている新日鉄は不要。 それでなくても、住商は住友グループの範囲内で十分食べて行ける会社でガツついておらず、安宅と合併する意欲が乏しかった。
安宅の鉄鋼部門の新日鉄の商権を欲しがったのは糸ヘンの伊藤忠。 ただし、伊藤忠は安宅の繊維、木材建材・パルプ、農水産、機械部門を不要とした。
このため、安宅問題を解決するために9年間もかかり、伊藤忠に継承された商権は約3000億円と安宅の3600人の従業員のうち1058人だけ。私の先輩を含めて約2500人がリストラされた。
そして、筆者は1984年までに2500億円の固定資産や不良債権の処理に成功している。

その次のイトマン事件も、若い人にはわかるまい。
磯田頭取は、住銀を大阪の銀行から全国の銀行にするため、東京の平和相銀の合併を画策した。
この平和相銀株取得するために、イトマンファイナンスの力を磯田頭取は利用した。これが後の5000億円にもおよぶ不良債権を住銀が抱え込むというイトマン事件に発展。
さらに、許永中という闇の黒幕から676億円もの絵画を購入し、この取引に磯田頭取の長女が絡んでいることが判明した。こうした一連の事件で、住銀は闇社会と繋がっているダーディな銀行であるという認識が一般化した。私なども住銀グループであるダイキンとの取引停止を、本気で考えさせられたほどの厳しい雰囲気が当時は漂っていた。
そんな風潮を敏感に感じ取った当時常務企画部長であった筆者は、20数人いた本店の全部長に、前日の夜に緊急部長会の開催を通知している。
この緊急部長会には結婚式に参加せざるを得なかった部長以外の全員が集まり、朝の10時から午後2時までかけて全員が意見を述べ、その結果を血判状という形で「磯田会長退任要望書」にまとめ、磯田天皇の首切りを筆者が断行している。
もちろん、磯田会長に伝えたのは巽社長で、要望書を見せ「お辞め下さい」と言ったそうだ。

このあと、筆者は住専問題で弁護士の中坊公平氏と和解したりしたあと、1997年に58才で住銀の頭取に就任。
筆者は、安宅産業とイトマンと言う大きな破綻処理に成功したが、その後も建設・不動産関連を中心に多くの不良債権が発生し、銀行は毎期その損失を計上しなければならなかった。
ただ筆者は、金融ビックバンはビックチャンスと考えていた。
途方もない不良債権は処理しなければならない。これは当然の義務。
しかし、リスクティクをしないで銀行がお客の役に立てるわけがない。つまり、不良債権を怖れて融資を渋っていたのでは、本業を放棄することになる。
他の銀行がおしなべて保守的なスタンスを取っている時、新頭取の積極策が物をいった。住銀の株価は
東京三菱を抜いてトップに踊り出た。これを「西川プレミアム」と呼ばれた。

そして、2001年の4月にさくら銀行の岡田頭取との合意の上で、「三井住友銀行」 を発足させ、筆者は初代の頭取に就任している。
ご存じのとおり、さくら銀行は太陽神戸銀行と三井銀行との合併で生まれた銀行。タスキ掛け人事が残っていた。これを一掃するために、筆者は「100日作戦」 という超スピード作戦を展開している。
そして、2005年に頭取をやめ、後任に奥頭取を選出する。その時、私が三井ホームの前岡田副社長を通じて間接的に知らされていた三井銀・岡田前頭取の意外な言動・・・。
さらには大腸ガンにかかった筆者の苦痛と日本郵政社長への強引な誘拐。
さらには、あの歴史的な醜聞と言える鳩山総務大臣の理不尽な要求と嫌がらせ。

この著書を読むと、政治家のいい加減な発言が、どれほど現場を担当している責任者にとって重い負担になっていたかが良く分かる。
この著は、単なるサクセス・ストーリィではない。
経済環境が強要する苦労の連続の中で、その重圧にもめげずに頑張った男。
そのロマンの素晴らしさを、日本で初めて語った著書。
あまりにも内容がすごいので、1/10も紹介出来なかった。 
アンチ小泉・竹中派を含めて、是非ともご一読を願いたい。
遅ればせながら、必読の価値ある好著であることを保証します。


posted by uno at 07:07| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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