2012年09月15日

「さすけ」 邸の現場  石膏ボードに対する哲学 (中)


さすけ邸の気密性能は、隙間相当面積 (C値) で0.6cu/u。 
一条は必ずしも自社職人さんによる 「直施工」 ではないはず。だからこの数値には価値がある。
遅れた現場見学だったので、気密性能を大きく左右する配線・配管工事のコーキングとスイッチ、コンセントボックス回りの処理法を確認することが出来なかった。したがって、気密性の良い理由が奈辺にあるかは確認できていない。
いずれにしても、R-2000住宅が求めていた50パスカルでの漏気回数が1.5回 (C値では0.9cu/u) を上回り、約1.1回という数値であることは認めるべき。 大手住宅メーカーで、コンスタントにこの数値を担保しているところは現時点では皆無。 だから 「良く出来ました」 と大きな拍手を送りたい。

だからと言って問題が全然ないかとなると、そうは問屋が卸してくれない。
同社の石膏ボード工事には、どうしても納得できない点がある。
ということは、一条の石膏ボード工事が 「公庫の標準仕様書」 に違反しているのか?
そうではない。
スクリュー・クギの打ち方も丁寧で メリコミもなく、クギのピッチも適切。
公庫の標準仕様書に照らしても、何一つ問題がないように見える。
だが、アメリカのボード工やスーパーバイザーと呼ばれる現場監督が見たら、即座にダメを出し、壁に関して全面的なやり直しになることは100%請け合える。
公庫の標準仕様書から抜け落ちた部分に、大きな問題点が・・・。

一条工務店は、年内に三井ホームを抜いて、ヅーバイフォー住宅の建築戸数では日本一になるはず。
しかし、同社がツ―バイフォーに取り組んだのは4年前に i-cube を市販してから。
それから、あれよあれよという間の急成長。 
ツーバィフォー工法がオープン化したのは 38年前の1974年の8月。 
30数年も遅れてのエントリー。
それまでの一条工務店は 木軸工法一本ヤリ。 免震工法では他社を引き離していたが、高気密・高断熱ではたいした実績もなく、4年前までは技術的に見て 決して優れた会社とは言えなかった。 
むしろ、田舎向けの需要が主体で、デザインは見事なまでのダサさ・・・。

遅れてのツーバィフォー工法へのエントリーだったので、基盤が出来ていたので比較的楽だった。
ツーバィフォー工法を普及させるため、初期のメーカーやビルダーがやらねばならなかったフレーマーの研修・教育・訓練の日々。 一条はその作業が少なくて済んだ。
大工さんを含めた社員をアメリカへ派遣して研修するという経験も省けたし、フレーマー、ボード工、ドライウォール工という新しい職種の確立・育成というトライ&エラーの経験も省けた。
三和建物のように高等職訓校を設立し、アメリカの大工学校でも教えている規矩術 (きくじゅつ) という大工技能の基本を叩きこみ、チームによる高い生産性の追求技術までを教えるという難しい仕事からも解放されてきた。
それでいて、大手他社には真似の出来ないC値0.6cu/uを達成しているのだから、なんとなく現場監督がしっかりしていて、現場力が高いように想像しがち。
だが、下の写真を見ると 同社のツーバィフォーの現場力に疑問符がつく。

窓回の細いボード.JPG

これは、外部開口部の内側だが、開口部の上部と両脇に幅60ミリくらいの細い石膏ボードの端材が継ぎ足されている。

出隅の細いボード.JPG

これは内部の出隅部。コーナービートの下になって見にくいが、両側先端部分に45ミリの端材が施工されている。

正直なところ、在来の木軸業者は、大手メーカーも独り親方も、今まであまりにも石膏ボードを軽視し、バカにしてきた。
昔は、コマイを組む変わりの土壁下地材として使い、それ以降においてもクロスなどの仕上げ材のための単なる下地材としてしか扱ってこなかった。
したがって、9ミリ厚の石膏ボードに平気で鉄クギなどで打ち付け、きちんとした基準やルールもなく、適当に処理をしてきた。 木軸で、12.5ミリの石膏ボードが構造材として採用されるようになってきたのはごく最近の出来ごとで、本格的に普及しているという状態ではない。
これに対してツーバィフォーの場合は、石膏ボードは最初から耐力壁としてカウントされてきた。
公庫の仕様書を見ればわかるように、内装下地材としては石膏ボード以外の仕様は全く考えていない。25ミリ厚以下の無垢の板類を張る場合は、下地に石膏ボードを張って防火性を確保した上で化粧材として取り付けている。
ツーバィフォー工法は、内部の天井・壁には必ず石膏ボードの被覆を義務づけている。
耐震性と防火面から、どこまでも構造躯体と石膏ボード工事は一体的に考えられてきた。
それなのに、木軸の石膏ボード工事の精度が低くて所定の壁倍率を与えることが出来なかった時、ツーバィフォーと大きな格差が出るのは問題だというので、ツーバィフォーの壁倍率を下げてしまった。
実態を知らない審査員の諸先生方の無定見さに呆れてしまうが、それよりも厳重な抗議が出来なかったツーバィフォー協会側の論理の欠如と弱腰を責めるべき。

38年前に出版された公庫の最初の「ピンクの標準仕様書」 には、「廊下に設ける内部のドアの壁であっても、必ず一枚の石膏ボードからドア部分をくり抜き両サイドの壁を一体処理し、細い端材で処理をしてはダメ」 という内容の項目があった。 (いや、あったはず。原案を書いた本人には確かな記憶がある。しかし、ピンクの仕様書はとっくに無くなっているし、一緒に標準仕様書づくりに加わった水谷、山田氏らの諸氏も第一線を退いているので確かめようがない。そして、共通仕様書は何回かの改定版を重ねている間に、この項目が抜け落ちてしまった・・・)
何故こんな項目を、わざわざ38年前の標準仕様書に書いたのか?

当時、新大久保駅前にあった建研の庭で行ったアメリカの3人の大工さんによる建て方実演。これでツーバィフォー工法の建て方の生産性の高さが分かった。だが、建て方以外の生産性が分からない。
このため、全工事の作業内容と生産性を調査するため、ホームビルダー協会は1ヶ月に及ぶ調査団をアメリカの西海岸へ派遣した。その調査によって、石膏ボードを中心にするドライウォール工法というすごい内装仕上げ工事がアメリカにあることを発見。
このドライウォール工事を日本へ紹介するため、プロのカメラマンから本格的な35ミリ撮影の特訓を受け、撮影機材を借りて石膏ボード工事とドライウォール仕上げ工事の映像を撮ってきた。
それを、「新しい内装仕上げ・ドライウォール工法」 という20分間の短編映画に仕上げた。

この時、アメリカで流行していたのは4尺×14尺という長尺ボード。 この14尺の長尺物は、天井面の施工に用いられていた。2人のチームで ヘルメットを被った頭でボードを抑えて施工する。
何故4×14尺という長尺物かというと、長尺物であればあるほど石膏ボードの強度が出る。 また、目地が少なければ少ないほど目地処理の手間が省ける。
つまり、ドライウォール工事の工数が省ける。
ただし、壁は一人チームのボード工が4×8尺の石膏ボードを横張りしていた。一人では14尺のボードは重くて持ち上げられない。
また、天井面と違って、壁面にはコンセントやスイッチボックスなど 穴を空ける個所が多い。長尺物を振り回していたのでは、穴空け作業が困難。 このため8尺物を採用。
しかし、8尺物だと、どうしても部分的に小幅なボードを使う必要が出てくる。その場合でも最低2スタッド間隔分、つまり32インチ (約810ミリ) の幅を確保するようにしていた。
ましてやドアやサッシ脇で、細片のボードを継ぎ足すようなことは絶対にやらない。 細いボードを継ぎ足すと、必ずと言ってよいほどその目地部分からクラックが入り、クレームが発生する・・・。
「中途半端な広さの空間を施工する時でも、石膏ボードはスタッドの幅、つまり最低でも16インチ (約400ミリ) 以下のものは使ってはならない。出来れば2スタッド以上に架けること。これが石膏ボード張り工事の鉄則だ !」 と、アメリカの現場監督の親分であるスーパーインテンデントが きっぱりとした口調で教えてくれた。

このアメリカのスーパーインテンデットの教えを腹の底から実感させられたのが、8年前に発生した新潟の中越地震。私は都合4回 激震地・川口町を訪れた。
その震度6強の十日町と震度7の激震地・川口町からの報告を、2004年の11月1週から2005年の1月4週まで、12回に亘ってブログに書いている。
その中で、ツーバィフォー工法と軸組工法との石膏ボード被害状況比較を、2004年の12月4週の「新潟中越地震 (8) 」に書いている。読まれた方も多いと思うが、参考にして頂きたい。

私が訪れた現場は、いずれも4寸柱と5寸柱による金物工法の木軸によるスーパーウォールの現場。
強調したかったのは激震地・川口町の中でも「超」激震地に建てられていた2棟に、倒壊がなかったこと。
とくに、豪雪地で1階はコンクリートの高床になっているが、この高床にほとんど被害がなかった。
この金物工法というのは、阪神淡路の直下型大震災で木軸が惨状を呈したことへの猛反省のもとに開発されたもの。
木軸工法の通し柱が、あっという間に折れて2階建ての1階がペシャンと潰れ、1階で寝ていた数千人の人命を瞬時に奪ってしまった。 原因は、細い通し柱にやたらと深いミゾを掘ったがため。 
ホゾ・ミゾ構造では、4寸以下の細い通し柱だと胴差しの部分で簡単に折れるという木軸工法の最大欠点を 見事なまでに実証したのが神戸の大震災。
この通し柱が簡単に折れないようにと開発されたのが、世界に誇って良い木軸金物工法。
この木軸金物工法の外壁に断熱材付きの構造用合板を3尺間隔の柱に取り付けたのが、「スーパーウォール・木軸版」。 このほかに455ピッチの204スタッド材の外側に構造用合板を張った「スーパーウォール・ツーバィフォー版」 と、206のスタッドの外側に構造用合板を張り、当時は北海道だけで限定販売していた「スーパー・シェル」があった。
だが、私が激震地・川口町と十日町で目撃したのは、「スーパーウォール・木軸版」 だけ。「スーパーウォール・ツーバィフォー版」 の被災状況は直接見てはいない。
しかし、多くの人々の目撃情報から、スーパーウォール・ツーバィフォー版だと開口部周りの石膏ボードに亀裂が生じていないのに、スーパーウォール・木軸版では亀裂が入ったという事実・・・。
また、震度6強の十日町では、内部の出隅の部分に打ちつけてあった細い45ミリの石膏ボードの端材が、激しい揺れでクロスやコーナービートとともに剥がれ落ちている現場を2ヶ所で見た。

軸と2x4の割付図.jpg

上図のように、木軸金物工法では3尺間隔に柱を入れる。間柱は幅1寸 (30ミリ) 以下の8〜9分という細い材が多く使われていて、クギを打っても構造的にはほとんど効かない。合板は、どこまでも柱と柱に渡して固定される。
そして、開口部上部はマグサ下端で、下はサッシ受け台の上端で合板がカットされる。そして、柱の上の合板の隙間は端材の合板で埋める。
もちろん、石膏ボードも同じことで、柱と柱で止め、間柱はズレ止め程度の役割しか果たしていない。
たしかに、あの2500ガルという直下型震度7の川口町でも、金物+構造用合板のスーパーウォールは倒壊を免れた。しかし、2階の木造の内部の石膏ボードの開口部周りには、クラックが見られた。
開口部の4隅部分は、合板と石膏ボードとも縁が切れており、端材を打ちつけている部分がネックだということが明らかに !!
だが、こうした現場を訪ねた建築関係の学者は皆無だったし、業界人もその実態を知っていない。

これに対してツーバィフォー工法の場合、アメリカでは4×8構造用合板の横張り。途中のスタッド芯から張り出して、出隅の余分な部分は350ミリほどカットする。 そして、開口部分の合板をくり抜けば一体壁となる。
石膏ボードは外壁の場合は入隅になるから、端から張り出してよい。
だが、3×8版とか3×9版をタテ使いしている日本では、隅から455離れたスタッド芯から構造用合板を張り出す。 このことは、公庫の標準仕様書に図で明示されている。
そして、開口部は合板をコ型にくり抜く図も 明確に書かれている。
4×8合板を横使いする場合は、千鳥張りにすることも図で示されている。
そしてこれは、何も合板だけに限った話ではない。
当然、石膏ボードも隅から455ミリ入ったスタッドの芯から張り出す。
内部出隅部も同じで455ミリ入ったスタッド芯から張り出し、出隅部は3尺物を必要な長さでカットし、45ミリの端材を継ぎ足すなどというケチな発想は、最初から皆無。
また、開口部はコ型に石膏ボードをくり抜き、45ミリとか60ミリの端材を開口部周りに打ちつけるという発想はどこにも見当たらない。 
ただ、先に示した「3尺幅の廊下に設けたドアの場合でも、細い端材を使うのはダメ」 との書き込みが途中で標準仕様書から消えた。
代わりに、「石膏ボードの割付けは構造用合板に準じ、開口部周辺では細い端材を継ぎ足してはならない」 との書き込みがされておれば、一条のような大きなチョンボの発生は防げたであろう。

このように公庫の標準仕様書に明記されていない以上、消費者が石膏ボードの端材が使われているのを見て、「これは瑕疵物件である」と異議を申し立てても、おそらく裁判所は受け付けてくれないだろうと考えられる。
公庫の仕様書に明示された文章がない以上、瑕疵物件だと判定できかねるから・・・。
むしろ、日本人特有の「もったいない」という精神から、端材を捨てないで活用した との善意にとることも出来る。 しかし、これはポリシーの問題。
「端材を活用するより、クレームを排除することこそ消費者のためになる」 という哲学の問題。

そして、文章での書き込みはないが、公庫の標準仕様書のコーナービートの施工図を見ると、石膏ボードがコ型に欠きこまれているし、石膏ボードのクギ打ち図を見ても、455ミリ離れた位置から石膏ボードが張り出されていることが読み取れる。
判じ物のようだが、分かっている者には十二分に意味が伝わる。
しかし私は、一条工務店の肩を持つわけではないが、公庫の標準仕様書の石膏ボード張りに対する記述が途中から判じ物の世界に陥れてしまった方に、より大きな責任があると考える。

ツーバィフォーの建設戸数で三井ホームを追いぬいてトップになろうとしている一条工務店。
それだけに、「遅れたエントリーだったので、過去の経緯やアメリカの動向は知りませんでした」 では許されないと思う。
これを機会に、トップ企業としての矜持を持ってツーバィフォー工法を再勉強してもらいたい。と同時に木軸工法で構造的に問題が多い間柱に対して、徹底的なイノベーションを加えていただきたいと心から希望したい。
その具体的問題は、バルーンフレーミング問題とともに 次回に詳報。






posted by uno at 05:52| Comment(0) | ゼロエネルギーハウス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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