2012年09月20日

さすけ 邸の現場  バルーンフレーミングと金物工法 (下)


アメリカの住宅団地で、道路や遊歩道、住宅を含めた全体を計画設計する者をランドプランナーという。
すぐれたランドプランナーは住宅設計に明るく、木質構造のことも良く知っている。
アメリカでは木質構造のことを、ウッドフレーム・コンストラクションと総称している。
このウッドフレーム・コンストラクションには、主なものとしてヘビー・テンバー (重量木構造) 、ポスト&ビーム (柱・梁構造) 、プラットフォーム (剛床構造) 、バルーンフレーム (通し柱構造) 、ログハウス (丸太小屋組) が含まれ、住宅設計士はこの5つの工法に精通している。
そして、強調したいのは、夜間高校で4年間に亘って学んでいる大工教育でも、この5つの工法の構造力学のポイントは教えており、大工と称するからには5つの工法をこなせて当たり前。

日本の在来の大工さんのように、木軸のことしか知らない大工さんは アメリカにはいない。
もっともアメリカのポスト&ビームといっても、柱・梁のすべての継ぎ手・仕口が金物で処理されている。 日本の木軸のように金物は一切使わず、芸術的な「腰掛けかま継ぎ」とか「渡りあご」仕口などというやたらと面倒な継ぎ手・仕口はない。
そして、それぞれにスパン表が用意されていて、このスパン間隔だとどれだけのセイと幅の梁が必要かは、素人でも一目で分かる。
正直なところ、私はアメリカのウッドフレーム・コンストラクションをそっくり日本へ持ってきたいと考え、故杉山英男先生に相談した。
「とんでもない」 と先生に言われた。 「日本の木軸には、大御所と呼ばれる諸先生が睨みを利かせていて、ポスト&ビームなどと言ったとたんに袋叩きにあう。諦めなさい」 と。
そして、日本へ導入されたのは5つ工法のうちの「プラットフォーム」だけ。これを当時の救仁郷住宅局長が「枠組み壁工法」と命名した。剛床構造ではなかった。

杉山先生は、プラットフォームは、「とくに2階の床剛性が大切で、大きな床開口をとってはならない」と強調されていた。 すごく当然な意見だが、プランをつくるビルダー側の人間としては困った。
アメリカの建築現場を見たことのあるすべての人は、異口同音に叫んだ。
「アメリカの住宅には大きな吹き抜け空間が、必ずと言って良いほどある・・・」。
その吹き抜け空間づくりには、206の通し柱によるバルーンフレーミングが用いられている。
そのバルーンフレーミングは導入しないと建設省も杉山先生も言う。 そうだとしたら、魅力的なプランづくりが不可能になる。
何としてでも バルーンフレームによる吹抜け空間が可能な 抜け道を用意しなければならない。
それが、当時の私に課せられた大命題。
苦悶している時、「ハッ」 と気がついた。 それは平屋の勾配屋根の妻壁。

勾配天井壁.jpg
アメリカでは勾配屋根をつくる時は、上図のように途中までは204のスタッドが1本だが、途中から2枚合わせにし、さらに高い部分の壁は204を3枚合わせて作っている。
そして、公庫の標準仕様書を作成する時、記憶が定かではないがこれに近い図を書き、「204材で可能な壁高は3.2メートルまで。 それ以上の壁が必要な場合は、図のように204の2枚合わせ、または3枚合わせにするか、206材としなければならない」 との注釈をつけ、ピンクの仕様書に書き加えた。
これが見事に奏効。 全国各地で206の通し壁による吹き抜け空間が誕生してきた。
公庫の技術職員も、確認業務に携わっていた地方公務員の技術者も、それが枠組み壁工法では認められていないバルーンフレーミングの一部であるとも知らず、公庫の仕様書に書きこまれていたのでノーマークで確認を降ろしてくれた。
こうして、北米では一般的に採用されている206の通し柱構造が、日本にも定着。
これは、日本の木質構造の普及という面から考えて、画期的なことだったと考えている。
そして、いつ頃だったかは忘れたが、改定された公庫の仕様書から「3.2メートルを越える妻壁の通し柱」 についての記述がなくなった。 無事に役目を終え、老兵は消え去った。

ハルーンフレーム.JPG

今では北米だけでなく、日本各地を歩くと206の通し壁の現場に出会う。私自身も何百戸となく建ててきた。206の通し壁は、構造的にも頑強で、安心して消費者に引き渡せる。
そして昨年の春、オーストラリア生まれのCLT (クロス・ラミネーテッド・テンバー) の17センチという壁厚の通し壁パネルが町田の玉川学園に登場した。
たった2間弱の階段室回りに、わざわざ通しパネルが使われているのを見て、嬉しくなった。
自然の住まい社がTHOMA社から直輸入している壁倍率7倍という超強靭パネル。
それが1、2階の通しパネルを採用していることで、同社に対する信頼感が一気に高まった。

P1040398.JPG

しかし、206の通し柱以外で床開口をつくる場合には、公庫の標準仕様書では非常に厳しい条件がついてくる。
外壁に接する開口部は、厳密に言うならば2.73メートル以下でなければならない。
そして、外壁上にくる端根太 (側根太が正しいのでは?) は208、210の3枚合わせにするか、408ないしは410の集成材としなければならない、とある。
つまり、206の通し柱を用いない場合は、1間半以上の床開口を設けてはいけないと言うのだ。
これは、故杉山英男先生の遺言でもある。
ただし、1998年に「性能規定化」という形で建築基準法が改正され、厳密な構造計算に基づき安全が確認されれば、公庫の仕様書に依らずに広い床開口も可能になった。
しかし、私は藤和とハーティホーム時代に、アパートも含めると延べ千数百戸のツーバィフォー住宅を建ててきたが、2.73メートル以上の床開口は全て206による通し柱方式で一貫した。
そして全ての住宅の構造図をチェックし、全ての現場を見て回って問題点の有無をチェックした。
現場を知らない構造設計屋さんに任せていたのでは、耐震面と防火面で安全な住宅を消費者に届けることが出来なかったのが現実。そのために自分を追い込んでゆかない限り 性能は保証出来なかった。

ところが、建築基準法の改正に伴って、ツーバィフォーでも工場での壁パネルの製造化が進んだ。そのことにより2つの大問題が発生してきた。
1つは、ツーバィフォーにあっては、どんな長い壁であっても、一体構造体にすべしというのが大原則。 
下の写真は「住宅革新軍団」から転写したもの。 写りが悪いが、これこそがアメリカの現場の一体壁。
大原則はきちんと守っている。

P1040481.JPG

ところが、日本では搬送の関係上 壁パネルの長さは3間まで。 そして、悪いことにT字型に内壁がくるところで外壁パネルを切断してしまう。 このため、頭つなぎで外壁を一体化出来ていない現場が出現してきた。
最初からやっている三井や地所などの経験豊かなコンポーネント工場製のパネルは安心出来たが、頭つなぎが最低3スタッド以上にわたって架かっていないインチキパネルが、基本を知らない工場から出荷され出した。 消費者は、ツーバィフォー工法は地震に強いと盲信しているが、一体化していないツーバィフォーのパネル住宅は 地震に対して非常に弱い。
スタッドを全体に38ミリ短くして、頭つなぎをダブルに入れ直すか、スタットをカットせずに3×9合板を使い、頭つなぎを余分に入れない限り 性能が保証出来ない現場を見受けた。

もう1つの問題点は、206の通し柱を使わず、206の短いスタッドの壁を重ねて、2.73メートルどころか3.64メートル、時には4.55メートルもの大きな吹き抜け空間が出現し始めてきたこと。
最初に目撃したのは、定年退職した後も現場チェックを任されていたハーティホームの現場。退職後は全ての構造図を事前にチェック出来なくなったので、412の梁を入れただけでかなりスパンを飛ばした現場が出現。これでは強い台風や大地震の水平力に耐えられない。
そこで、私なりの補強策を用意してT社長と幹部に、「補修した方がよい」 と提案した。
ところが、「構造設計事務所で計算してもらっているから 大丈夫」 と取りあってくれない。
そこで、信頼しているベテランの構造設計士に相談したら、「心配ですね」 と言うが、自分で計算をし直して解決策を用意してくれない。 つまり、仲間の仕事にケチをつける仕事は引き受けたがらない。
そこで杉山先生に相談した。 亡くなられる2年ぐらい前のことだったと思う・・・。
「最近は、コンピューターの机上計算だけで 耐震性があるとかないとか言っている構造屋さんが多いが、一番分かっているのが現場の大工さん。その壁が強いか弱いかは経験値で分かっている。206の通し柱方式の壁をクレーンで吊り上げた時の感触を100としたら、梁で分断し、合板も分断したものだと かなり低い数値になるでしょうね。ところで鵜野さんは通し柱方式を100としたら、問題のこの壁の数値はどの程度だと感じているの? 」

この杉山先生のサジェスチョンもT社長は受け入れてくれなかった。ハーティホームの現場に責任を持てなくなった私は、その日をもって顧問役を辞退した。
そんな経緯があるので、私がさすけ邸の大きな吹き抜け空間を見て 若干の疑義を持ったとしてもおかしくはない。きちんと構造計算がなされ、特殊な開口部構成だから、合板は梁に架けて張られているはず。 
いずれにしろ、タイル工事が終わった後での現場見学者には、発言権はない。

ただ、私が一条工務店に注文したいのは、金物工法を本格的に採用して 木軸とツーバィフォー工法をもっと融和してもらえないかという 希望と言うかお願い。
最初に書いたように、アメリカではウッドフレーム・コンストラクションという大枠の中で、全ての構造が融和して使われている。
ほとんどの現場で、プラットフォームとポスト&ビーム、バルーンフレーミング、そして時にはヘビー・テンバーまでをもがミックスして採用されている。ポスト&ビームが主体の素晴らしい現場も見た。
ツーバィフォーがオープンして10年くらい経ったある日、杉山先生と同じタクシーで家へ帰る時に、「アメリカのように日本もツーバィフォーと在来木軸の土俵を一緒にできないものでしょうか」と聞いた。
そしたら杉山先生は、即座に断言された。
「君が考えている在来木軸というのは、大正時代以降の羽子板ボルトとスジカイによるケチった3寸5分角の柱工法のことだろう。日本の伝統的な在来木造というのはスジカイ工法ではないの!!  伝統的な木造住宅というのは大貫工法のこと。この大貫工法と、ツーバィフォーを一緒にすることは困難ですね」 

しかし、阪神淡路大震災を契機に誕生した金物工法は、床はプラットフォーム化してきているし、外壁は構造用合板張りになってきた。ただ、足りないのは間柱を大きくして機能させるという発想。
それさえ出来れば、金物工法とツーバイフォーは限りなく近づける。
金物工法によるラーメン構造まで誕生してきている。
私を含めて何人かの仲間で考えたのは、外壁は606 (14センチ角) の柱を2間とか2.5間、あるいは3間 間隔に建てる。 206で壁パネルを組み、606の柱の間に嵌めこんでゆく。そして、206の壁から606の柱へクギを打って、緊結する。
そして、606の柱の中心から両方のパネルに渡るように現場で合板を張れば、壁は完全に一体化する。
そして212ないしは412の集成材、あるいはLVLの胴差を外壁の全外周へ回せば、マグサ材が不要になり、しかも剛金物で緊結するので通し柱がなくても かなりの広さの吹き抜け空間が可能に。
2階は406ないしは408の敷桁を四周に回せば、これまたマグサが不要になる。
内壁は204でよく、4寸柱を使って真壁らしい和室をつくってもよい。

日本の国産材にこだわるのだったら、606の柱でなく、4寸角でもよい。そのかわり、大量の38×120ミリのKD材の間柱が必要に。
構造用合板と石膏ボードの張り出しは、隅芯から455ずれた間柱芯とすれば、開口部のボードはコ型にくり抜かれ、強度が増す。端材を使う必要性は一切なくなり、震度7の直下型に出会っても開口部に亀裂が入る心配がなく、コーナービ―トが端材と共に剥がれる心配も解消される。
そして、ツーバィフォーのパネルが一体化していないという致命的な問題も解決する。

本来は、この大仕事は林野庁が中心になり、製材業者や建材問屋、金物企業が音頭をとって始めるべき。
しかし、残念ながらイノベーション力という面では あまり期待できない。
また、木材や金物関係者は、クローズドシステムで突っ走っているので、共通の土俵を用意するのは困難かもしれない。
そこで、木軸とツーバィフォーを手掛けている一条への期待。
i-cube や i-smart の開発に見せた一条のイノベーション力は、際だっている。
また、太陽光発電用の資金を、銀行ローンとは別に一条で用意し、売電で返済すると言うシステムは、他に例を見ない画期的なイノベーション。
ただし、42円という売価はいつまでも続かず30円そこそこになるだろう。当然、返却期限が延びることになるが、本来は金融機関が考え出さねばならないシステムを先取りし、実質的なゼロエネルギー・ハウスを数千戸単位で供給している実績。 いろいろ問題はあっても、この事実は高く評価すべき。

私の提案した606の柱間に206の壁を挟みこみ、胴差と敷桁で抑え、柱回りの合板だけを現場施工として一体化するシステムは、すでに北海道の何人かの仲間が経験済み。
したがって、工法として特許がとれるという性格のものではない。
しかし、現在のツーバィフォー・パネルの欠点と木軸工法の泣き所は 見事に解消している。
日本の木質構造が、実質的に数歩前進する契機になってくれることは間違いない。

中越地震での金物工法の活躍で、阪神淡路の時とは異なる兆しが見えてきたとの嬉しい報告を持って、病気見舞いに参上しようと考えていた折、膵臓癌での訃報を知らされた。
杉山先生が存命だったら、必ず喜んで賛同して頂ける内容だと信じている。
一条工務店の英断に期待したい。




posted by uno at 07:52| Comment(0) | ゼロエネルギーハウス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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