2012年09月25日

生命力の強いダチョウの抗体がインフルエンザや花粉症に効く!!


塚本康浩著 「ダチョウの卵で、人類を救います」 (小学館 1300円+税)

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皆さんは、ダチョウの抗体を利用したインフルエンザ用マスクや アトピー対策用の化粧品が売られているのをご存じでしたか?
世情に疎い私は、この本を手にした時、「なに?!・・・。ダチョウの卵で人類を救う?  どうせ大法螺吹きの駄本だろう・・・」と、何一つ期待もなく読み始めた。
これほど期待もなしに読み始めた本も、珍しい。

後で調べて分かったことだが、著者は1968年生まれと言うから44歳と働き盛りの獣医学博士。 
大阪府大獣医学科を卒業し、1998年にニワトリの砂肝からとれるギゼリンというたんぱく質がガンの移転に寄与していることを突き止めて博士号を取得、同科の助手に就任。
獣医学というのはウシ、ブタ、イヌなどの家畜か、ニワトリ、アヒルなどの家禽かのいずれかを選ばねばならない。子供の時から小鳥を飼うことが大好きだった著者は、博士論文にはニワトリを選び、助手になった翌年に、ひょんなことから「オーストリッチ神戸」と言うダチョウ牧場の主治医に。
このダチョウとの関わりが、氏に大発見のチャンスをもたらしてくれた・・・。

オーストリッチ神戸の小西社長の本業はモヤシの製造販売業。
豆に水を撒けば、モヤシはグングン育つ。 だが、うまく育たないものや育ちすぎたものが多く、製品として出荷できるのは一部に過ぎない。 残りは産業廃棄物として処理されている。 一日に処理するモヤシは約2トン。 年間の処理費用は1000万円を越えて、経営上の大きな負担になっていた。
小西社長は産業廃棄物のモヤシが、家畜のエサにならないかと考え、いろいろ調べたらダチョウがマメ科の植物を好むことを知った。
1990年代に、農水省はダチョウの家畜化に対して助成金を出した。
ダチョウは飛ばない、鳴かない、変な臭いがしないと3大利点を持っている。 つまり、住宅地の近くでも飼うことが出来る。
しかも、健康なメスは年間80個もの卵を生む。この卵の大きさはニワトリの約30倍で1.5kgから時には2kgを越えるものもある。 このため、意気揚々と脱サラしてダチョウの飼育を始める人も輩出。
ところが、ダチョウの肉と卵はニワトリほどおいしくない。 このため、あまり売れなかった。皮もそれほど人気がない。 かくて、多くのダチョウ牧場は 瞬く間に行き詰まってしまった
小西社長の発想は、どこまでも産業廃棄物としてのモヤシの処理にあったから脱サラ組とは一緒に出来ないが、肉や卵を売っての 「一石二鳥」 ではなく、「一鳥二石から三石」 を考えていたことは間違いない。 ダチョウ牧場が次第に重荷になっていたことは事実。

そして著者にとっては、最初の頃は鳥好き坊主に単なる大きな玩具が与えられたような状態。
これと言った研究テーマもなく、専らダチョウの行動を徹底的に調査して、「ダチョウの行動学」 という論文でもまとめるとするか、としか考えていなかった。
ダチョウは常日頃5〜10羽の群れで集団行動している。そして、その中の一羽が走り出すと、みんな一斉に走り出す。 当然、最初に走りだした一羽がリーダーだろうと思って調べると、どうも違う。別の時は別の一羽が走り出し、みんながついてゆく。
また、ある一羽が羽を広げると、他のダチョウも一斉に羽を広げる。 食事にしても同じ。どれか一羽が餌をついばみはじめると、他もついばみ始める。
どうやらダチョウの集団にはリーダーが居ないよう。 ということは、動物行動学的にこれを 「群れ」 と言えるだろうか。 ただなんとなく集まっているだけの、文字通り烏合の衆にすぎないのではなかろうか。 3年間もダチョウを追い続けているうちに、ダチョウの行動学という研究テーマそのものに大きな疑問符がついてきた。
だが、そのあとの2年間も、惰性でダチョウを観察していただけ。 当然ながら学問的成果はゼロ。

しかし、ダチョウを観察して分かったことは やたらに生命力が強いこと。
平均寿命は60年もある。 ダチョウほど丈夫な鳥はいない。 鳥というのは一般的にケガに弱い。ちょっと血を流しただけで死んでしまうものが多い。 セキスイインコは、たった3滴の血を流すだけで貧血になり、命の危機に見舞われる。
ところがダチョウは、仲間どうしで羽をむしりあい、体を突きあい、血まみれになっても何事もなかったように平然としている。お尻を突かれ、血が出ているのに頓着なく餌を食べるのに忙しい。
ちなみに、この羽をむしりあったり、突きあったりする行動には特別な意味が何一つない。ただ、ヒマだからやっているだけ。
ダチョウは体が大きいのに脳はネコほどしかない。しかも皺がほとんどない。鈍感と言うか、何も考えずに生きている。 典型的なアホ。
突きあって血を流すと、カラスが嗅ぎつけてやってきて、恐ろしいことにダチョウの肉をついばみ始める。それでも何一つ痛みを感じていないよう。 ここまで来ると見た目は悲惨。
だが、傷口に傷薬をスプレーしておけば、数日で傷はふさがり、一ヶ月後には新しい皮膚が再生。 もう助からないという大ケガをした時でも数日でモヤシを食べるようになり、3ヶ月もすれば完治。

鳥の体温は41〜42℃と人間より高くて、細菌は繁殖しづらいとされている。しかし、ダチョウは別格。
傷口の病気が拡がることもなければ、感染症にかかることもない。 だから免疫力はことのほか強いのだろうとかねがね感じてはいた。
原始的な動物から人間など哺乳類にいたるまで、体の中に病原体などの異物が入ってくると、これを除去しようとするたんぱく質の分子をつくる。これを抗体という。抗体を作って体を守る働きを免疫と呼ぶ。一般に「免疫力が強い」ということは、「抗体をつくる能力が高い」ということ。
抗体の良いところは、体の外に取り出してもその働きが失われないこと。しかも抗体は特定の抗原にしか作用しないので、無関係なものをやたら攻撃しない。
そこで、従来はマウスやウサギなどの小動物で作った抗体を、治療や検査薬に使っていた。しかし、小動物が相手だから、抗体は小量しかつくれない。
「ダチョウ大きな体と生命力を活用すれば、大量の抗体が安く出来るかもしれない !?」
ダチョウと遊び始めて丸5年。 著者は初めてダチョウを本格的な研究対象として俎上にのせた。

最初の目論見は、こんなふうに乱暴なものだった。
まず、健康なダチョウにウィルスや細菌などの病原体を注射して、その高い免疫力で抗体をつくってもらう。 2週間後に採血して、抗体ができているかどうかを確認。 いい抗体ができてればダチョウに安楽死してもらって、血液を抜き取り、抗体のみを精製する。 これが当初の机上計画。
ところが、ダチョウに注射を打つこと自体がとんでもない重労働。いい抗体を得るには元気のよいオスに注射をした方が良かろう。ところが、放し飼いされているオスをつかまえるのが並大抵ではない。100メートルの記録保持者ウサイン・ボルトのトップ・スピードが時速換算45キロ。これに対してダチョウは60キロと軽く上回る。 牧場の人5人がかりでも捕まらない。 時にはキックの反撃を喰う。 このため、1日がかりで1匹に注射が出来ればオンの字という有様。
そして、良い抗体が出来ても安楽死させるのは辛い仕事。 
その上、血液を取り、これを大学まで運ぶのが一仕事。 体重100キロ以上のダチョウからは7リッター以上の血液がとれる。 これをバケツに入れて小型車で牧場から大学まで運ぶのだが、血なまぐささが車内満ちる。だが、窓を空けると非難ゴウゴウ。 うっかり窓を空けることもできない。
そして、予算がないのにムリして大型の遠心分離機を買ったのだが、1回で扱える量は1リットル。時間は20分もかかる。丸々半日仕事。 作業服は血まみれで、臭いは付きまとう最悪の3K仕事。
著者も助手もついに音を上げた。

そこで窮余の一策として考え出したのが、卵から抗体を取りだす方法。
これも、すんなり行ったわけではない。
まずメスのダチョウが、なかなか抗体入りの卵を生んでくれない。
そして、抗体入りの卵が手に入るようになったが、卵の殻が硬くて歯科医師が歯を削る時に使う回転式ヤスリを使わないと殻が割れない。
さらに黄身だけを使うのだが、白身との分離がなかなかうまくゆかない。
取りだした黄身はビーカーにあける。ここから純度の高い抗体を取りだすまでには数ヶ月に及ぶトライ&エラーの連続。そして、やっと純度の高い抗体の入手に成功したのが2005年。
それまで、マウスやウサギなどの小動物からつくられる抗体の価格は、グラム数億円もしていた。
これに対してダチョウ1個の卵からつくれる抗体は約4グラム。そして価格は、グラム10万円としている。価格は1/1000〜1/4000以下になり、抗体の用途が飛躍的に拡大。
そして、今まで1個4000円前後で取引されていたダチョウの卵が100倍の価値を持つようになった。これこそ、文字通りのレボリューション。

純度の高い抗体が入手出来るようになったので、これから先は如何にしてこの抗体を使う産業を興し、新しく求められる学術的裏付作業が着実に行えるかどうかがカギ。
著者がまず行ったのは産学提携ベンチャーのための助成金の申請。
2004年から国公立大学は全てが大学法人となり、教員1人当たりに与えられる研究費は年間45万円程度のものに。 著者は2004年頃から大学でダチョウを飼いはじめている。 そのエサ代のこともあって、文部科学省所管の JST (科学技術振興機構) から助成金を得ている。この助成金には松、竹、梅と3段階あって、とりあえず得たのは安い梅の助成金。このため、ダチョウにはひもじい思いをさせなくて済んだが、今度は松の1億5000万円という助成金を狙うことにした。これに合格すれば、将来ベンチャー企業を興すことが義務づけられている。  その松のテーマにチャレンジしたら見事に合格。
そして、著者が最初に取りかかったのが鳥インフルエンザから消費者を守る 「ダチョウ抗体のマスクの開発」 を、一緒にやってくれるベンチャー企業を探し出すこと。 
いくつかのセミナーで参加して呼び掛けたが、なかなか名乗りをあげる企業がなかった。

2006年秋になって、福岡・飯塚市のクロシード社が名乗りをあげてくれた。
その会社の辻さんという元商社マンが、「H5N1鳥インフルエンザだけでなく、H1N1、H3N2、B型などポピュラーなインフルエンザ全体に対応できるマスク」 の開発を求めた。素材を不織布として布地には保水層を設けた。調湿素材フィルターや静電気フィルターを重ねてホコリも寄せ付けないものにした。
しかし、辻さんはそれだけで満足せず、「抗体が鳥インフルエンザウィルスに有効なことを、是非学術的に実証してください」 と難題を突き付けてきた。
ダチョウ抗体は、間違いなく効果があると理論的に確信できるが、まだ実証データがないのは事実。 
しかし、インフルエンザに罹っている鳥など日本にはいない。どうしたよいものかと思案していたとき、インドネシアからの留学生のことを思い出し、連絡したら、「今度は私が先生のお役に立つ番です」 と喜んで協力してくれた。

このインドネシアでの実証実験だけでも一つの物語になる。
紆余曲折を経て、ダチョウ抗体マスクの有効性の実証データを揃えて2008年から売り出した。 
ベンチャーの新会社は予算がなくPRらしいPRが出来なかったが、報道機関がこの新しいマスクに飛びついてくれ、一冬で700万枚以上売れるヒット商品となった。 翌2009年の新型ウィルスにも十分な機能を発揮してくれ、さらに売上を伸ばした。
この間に、著者は大阪府立大から京都府立大学へ移行している。 大阪府立大の新校舎が完成したが、ダチョウを飼育する場所がなかった。このため、2008年にダチョウともどもに京都へ移った。
そして、その年の6月に資本金500万円で京都府立大発ベンチャー「オーストリッチファーマ(株)」を設立している。 こうして、ダチョウ抗体は本格的稼働へ。

そして、住宅に関係している一人として私の不勉強さを認めざるを得ないのだが、08年の11月には富士フィルムが8帖用の抗体フィルター付き空気清浄機を、2010年の冬からは日立アプライアンスが大型の抗体フィルター付き空気清浄機を発売しているという。
また、日立と同じ頃、タイガー魔法瓶が抗体フィルター付き加湿器を発売しているともいう。
それだけではない。2011年にはアトピーや花粉症対策用の化粧品を製造するベンチャー・ジールコスメティック社が立ち上がり、今年からアトピー用化粧品の発売を開始している。もちろん、その開発には筆者が深くかかわっている。
さらにはニキビ対策、ガン対策、HIV対策にもダチョウ抗体が医学的な効力を持っていると著者は言う。
医学分野には、私のような素人は口が出せない。

私どもは、今まで花粉症やアトピー、風邪やウィルス、ダニ、カビに対して建築的に有効に対応してきたつもり。 しかし、花粉の侵入しない家は作れても、花粉症そのものを軽減する力は持っていない。
ダニ、カビ、ホコリを追放して、アトピー患者に感謝される住宅づくりを推進してきたが、すべてのアトピー症状に有効だったとは言えない。 
また、除加湿のコントロールでダニ、カビ、ウィルスのいない家づくりには自信がある。
しかし、H5N1鳥インフルエンザを完全にシャットアウト出来るという実測データは持っていない。
富士フィルム、日立、タイガーの製品の効率が 如何ほどかも確かめていない。
ただ、この著がいうところの免疫力については、かねてから新潟大の安保徹教授が強調していることであり、医学界とは大きな見解の相違がなさそう。 
とすれば、新しいテーマとして、建築がどこまでダチョウ抗体に対応して行けるかを、お互いに勉強してみようではありませんか。

それにしてもこの著は、小学館の整理下手のため時系列的に大変に読みづらく、不要な箇所も多い。


posted by uno at 06:59| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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