2012年10月05日

訴訟されない政府!!  無責任な住宅政策が今日も跋扈? (上)


私には、国交省を責めようという気持はない。
次世代省エネ基準委員会に 文句を付けようとも考えていない。
ただ、消費者とビルダーの皆さんに、日本では住宅政策で国に期待しても始まらない。 最初から期待してはいけないのだ・・・という根拠というか 根元的な理由を述べたい。

ご案内のとおり、アメリカやカナダは訴訟国家。 
何か問題が起これば、企業だけでなく国家も訴訟される。
雪の日に、家の前の道路の雪かきをしなかったがために、滑って怪我をした人から 医療費と損害賠償金が請求される国。
何か事があれば提訴される。 したがって、迂闊なことは出来ない。
住宅政策でも、いいかげんなことを言って、少しでも瑕疵があれば、政府が賠償金を支払わされることになりかねない。

そんなカナダから23年前に、「カナダ政府は紀元2000年までに住宅の外皮の性能をR-20以上にして、家庭で使われるエネルギーを1/4にする画期的なR-2000住宅を開発した。 ついては、この技術を無償で供与するから、日本でも普及させるパートナー団体を推薦して頂きたい」 という依頼が当時の建設省にとびこんできだ。 
建設省はツーバィフォー建築協会を推薦した。
同年、協会内に「R-2000住宅研究会」が、翌90年には学術委員を網羅した「R-2000住宅技術基準検討委員会」が発足。 技術基準を策定し、設計・施工マニュアルを作成し、熱負荷計算プログラムHERSを開発して91年から建設大臣認定制度を新発足させた。
この発足に併せて日加住宅R&Dワークショップも動き出した。
たまたま私がこれらの動きに最初から絡んでいたのと東京に事務所があったことで カナダ政府との折衝の裏窓口役を引受けさせられた。 カナダ側の窓口は天然資源省・CANMETエネルギー技術センター主席のライリーさん。
あの訴訟の国・カナダで、カナダ政府がカナダ国民に対して、「R-20の性能を保証します」 というのだ。信じられますか?  それだけに私共の想像を超える裏対策が講じられていた。

R-2000.JPG

土間床.JPG

上はツーバィフォー協会の「R-2000住宅」の諸規定、解説、マニュアル、図面を盛込んだ初版本。
下は、部位別計算例の一部で、当初の土間床例。後にスカート断熱や床一帯断熱も登場。

日本のR-2000住宅の、主な技術基準は以下。
◆断熱性能。
そもそもR値というのは、断熱性能値を現す記号。 しかし、カナダのR値は単位がフィートなので、日本のR値とは同じではない。
日本では、外皮の断熱性能を熱貫流率 (U値) で表現している。(当時はW、ワット表示ではなく、Kcal表示だったからK値と言っていた)
カナダのR-20をU値で表現すると、5.67/20=0.284W。 つまり天井・屋根、外壁、開口部、床を含めた外皮の平均U値が0.284Wであるべきと言うのがカナダのR-2000住宅の断熱性能基準。 
しかし、日本列島は南北に長いので、カナダのように1つの基準で済ますわけにはゆかない。 地域別、部位別毎に断熱性能基準が定められた。
◆省エネ性能。
これについては、坂本雄三先生からQ値 (熱損失係数) で、T地域は1.2W、U地域は1.3W、V〜W地域は1.4Wと提示された。
◆気密性能。
R-2000住宅の気密性能測定は、当初は加圧と減圧の両方を行い、50パスカル時の漏気回数は1.5回以下。これを日本流の相当隙間面積 (C値) で表現するなら0.9cu/u。
◆換気性能。
換気に関しては、以下の基準が設けられた。
(1) 必要換気量は0.5回/時とする。
(2) 換気は常時機械換気で行い、原則として居室に対しては外気を導入し、台所、トイレ、浴室等
から排気を行うものとする。 なお、換気設備には熱回収装置を組込むことが望ましい。
(3) 換気設備は、短時間で煙、臭気、水蒸気などが排気できるものが望ましい。
この基準作成時点ではカナダのメークアップ・エアーが紹介されておらず、基準から漏れている。
◆冷暖房設備。 
これは全室を対象とし、常時行うものとする。 ただし、開放型燃焼器具は使用してはならない。
この時点では、セントラル空調換気の場合はOAとEAは別の壁に設置するのがベター。同じ壁に設ける場合は、最低でも2m以上の間隔を空けなさいという指導方針は示されていなかった。

つまり技術基準は、出来るだけカナダの基準に準じた。 何しろカナダのエネルギー技術センターは訴訟に対処するため膨大な実験データの裏付けを持っており、技術的に反論が出来なかったから。
ところが、この項目の中で大問題になってきたのが1.5回という漏気回数。
この気密性こそ、訴訟国家・カナダ政府が埋設させていた最後の防御ライン。 
だが、当初はそのことに日本の誰も気付いていなかった・・・。 メーカー各社の技術責任者は、R-2000住宅の気密性能に対してそれほどの警戒意識を持っていなかった。 たしかに厳しい条件だが、長年ツーバィフォーを手掛けてきたわが社の技術陣だと、必ずクリアー出来ると信じていた。
しかし、実際にR-2000住宅を建て、最後の完成検査時になって基準を下回る物件が続出。
途中だと手直しをしてなんとか恰好を付けられるが、引渡し直前の気密性能値は、手直しと言い訳が効かない。
つまり、瑕疵物件として発覚、浮上。 
施工を下請けに丸投げしている大手メーカーは、生産性向上という名目で現場監督にやたらと多くの現場を持たせている。このため資材の手配だけで目一杯。 毎日現場へ顔を出すことは不可能で、週一がいいところ。 それを、ベテランの営業マンが補ってくれている現場はクレームにならないが、トーシロの営業マンの現場だとクレームが発生。 そして一度クレームが発生すると監督はそれに振り回され、ますます他の現場が手薄に。
このような悪循環の中で、すべての現場を完全管理することは神業というよりは不可能。 過剰なノルマが気密性能の面で大きくマイナスに作用。
正直言って、これほどまで現場監理機能が劣化しているとは 本社の技術のトップの面々は理解していなかった。 気密性能を担保することが出来ないという社内理由で、大手は軒並みR-2000住宅から撤退を余儀なくされていった。 

R-2000住宅を、単なる技術基準だけで判断するのは大きな誤り。
カナダ政府は、R-2000住宅に手を上げた住宅会社を、消費者からの訴訟に耐えられる体質に脱皮させる必要があった。このため認定制度そのものが、日本の認定制度のようなユルフンではなかった。
R-2000住宅への参入を希望する業者は、必要書類と登録料を添えて支部に提出する。
そして、技術基準に基づいたR-2000住宅試験棟を1棟建て、協会の検査に合格することが絶対条件。
この検査は、断熱・省エネ性能のチェックも重要だが、完成時の気密測定検査にポイントがあった。
この高い壁が越えられず、脱落したビルダーも多かった。
つまり、断熱・省エネ性能は、仕様を変えるだけだから 誰にでも出来る。
しかし、気密性能は大工さんだけでなく、断熱工、ドライウォール工、電気工、水道工、仕上工をきちんと教育し、訓練しない限り絶対に達成出来ない。 つまり、意欲的な業者でないと取組めない。
あえて敷居を高くすることで、いい加減な気持ちでのエントリーを防ぎ、消費者の信頼に応えようとカナダ政府は考えていた。

さて、試験棟を1棟建て、見事に協会の検査に合格して登録業者になれたとしょう。
しかし、登録業者になっただけではR-2000住宅には乗り出せない。
協会が主催する「設計評価員研修」を受け、コンピューターで熱負荷計算が出来て設計評価員として登録された者の「設計評価」が無ければ 着工は出来ない。
また、「認定検査員研修」を受け、認定検査員として登録された者の認定検査合格証がないと、当該住宅はR-2000住宅として認められない。
そして、認定検査の公正さを期すために、更なる大きな条件をカナダ政府は用意していた。
それは、「認定検査員は自社物件を検査することは出来ない。必ず第三者の認定検査員の 認定合格証でなければならない」 というもの。
消費者にR-2000住宅の性能を担保するには、ここまで考えていた。
そしてカナダ政府は、日本にもこの基準を踏襲することを求めた。

私は、この厳しい条件を見て、「さすが消費者意識の高い国は違う。日本のような慣れ合いを認めないのは素晴らしい」 と感じた。 だが、この項目は運用面で大きな障害になった。
なぜなら、独立した設計事務所が認定検査員を抱えていたら、そこへ頼める。しかし、当時の設計事務所はR-2000住宅にはまったく無関心。協会の研修会に誰一人として参加していない。自社以外の認定検査員は、同業他社にしか居ない。このため、少し離れた仲間の企業と話合い、お互いに認定検査員を交換するしか方法がなかった。
他社の従業員を使うのは大変難しい。こちらの必要な時間帯に来てくれるとは限らない。どうしても相手の事情を優先させ、遠慮してしまう。このため工期や引渡しが延期されることが往々にあった。
目的は、消費者に検査の公正さを立証すること。
それだったら、第三者に検査を依頼するよりも、「必ず施主の立合いのもとに、検査内容を良く説明し、納得の上性能を確認したとの捺印を施主からもらうべき」 とすべきだった。 実際にほとんどの施主が喜んで検査に立合ってくれ、試験方法に興味を持ち、その性能に納得し 満足してくれた。

カナダ政府に限らず、各国の政府が国民に住宅の性能を保証しようとするなら、瑕疵のない住宅を建てるしかない。 日本で公営や公団住宅を建てていた時のプレキャスト版が持っていたあの構造性能を、全ての資材に持たせ、それを政府が間接的に保証してゆく。
しかし、住宅の供給は、「官から民」 へ移行した。 と同時に、官は消費者に対して一切の保証行為から撤退。 そして、政府が訴訟されることがないように、また仮に訴訟されても逃げ切れるように、全てのシステムが再構築された。

「長期優良住宅」 と名を変えたが、一頃は 「100年住宅とか200年住宅」 と国交省と一部の民間人が囃し立てていた住宅。 本当に100年とか200年も構造体が丈夫住宅を作るなら、せいぜい40〜50年しか持たないサッシは、内付けで取り換えられるシステムでなければならない。ところが日本のサッシは全て外付け。したがって、サイデングやタイルを全部剥がさないとサッシの交換が出来ない。
「そんないい加減な住宅が、本当に100年住宅と言えるか?」
もし、日本の消費者が欧米のように意識が高かったら、必ず訴訟になり、消費者側の勝訴になると私は考えていた。
まともな常識と神経を持っている人間には、国交省推奨の100年住宅の誘いには乗れない。 もし消費者から訴訟された場合、国交省は逃げ切れるだろうが、地元の消費者と常に向き合っているビルダーは逃げられない。いや、逃げてはならない。となると、100年住宅という以上は、国交省とは別の仕様と基準を定め、それを徹底させ、そして最低50年は ほぼ無料で保証を続けるだけの覚悟がなければならない。
そんな地場企業の切ない立場を、逃げることが大前提の役人が考えてくれるわけがない!!

今年、話題になった国交省関連の補助金事業として、「先導技術開発助成事業」「地域型住宅ブラインド化事業」「ゼロエネルギー住宅補助事業」 などがある。
いずれも仕様規定。 どれ一つとして試行建設を求め、出来栄えと性能をチェックしていない。
それぞれに、申請・審査には、厖大な書類の提出と時間が求められたが、いずれも書類審査のみ。
そして、仮に認可されたにしても、それぞれの事業は年度内事業で、着工や完了の時期が限定されている。補助金工事が集中するので資材は高騰し、職人は奪い合いになる。
役人が言っているほど、補助金事業は優れた需要開発と景気浮揚に貢献してはいない。補助金事業は役所の権益を守る面では貢献度が大きかろうが・・・。

仮に「ゼロエネルギー住宅」の補助金を得て、新居が完成したとしょう。
そして、1年間に亘って綿密なデータをとった。 
そしたら、当該住宅は申請書類に基づいてきちんと建てたが、実際にはゼロエネルギーには遥かに及ばず、6万円ものエネルギーが持ち出されたとしょう。 そこで頭にきた施主が 国交省を訴えたとしても、勝訴をかちとることは出来まい。
「そのために、業者に膨大な書類の提出を求め、綿密な審査を行いました。ゼロエネルギーを達成できなかったのは、業者が申請内容に違反した工事を行ったか、あるいは消費者が約束事を守らず電気を使いすぎたのでしょう」 と開き直られるのがオチ。 
「国交省の手続きは完全で、審査も専門委員会の決定事項を忠実に守って行った。 したがってこちら側には一切の瑕疵がないから、責任の取りようがない」 とうそぶくだろう。

こうした逃げ口実のための厖大な書類。 
どんなに消費者や地場ビルダーが地団駄を踏んでも、今の日本の補助事業制度では 性能が担保されていなくても、勝訴は出来ないのです。

posted by uno at 04:33| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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