2012年10月10日

訴訟されない政府!!  気密性能を捨てた日本の省エネ基準 (中)


R-2000住宅を一緒にやった仲間が、集まって話をする時。 その折に、異口同音に言うことがある。
「R-2000住宅をやってみて初めて分かったことがある。 それは、住宅業と言うのは徹底して消費者の側に立って物事を考えることが生業 (なりわい) だということ。 その生業を成功させるコツを体得させてもらえた。 本当に有難かった」 と。

カナダのR-2000住宅運動を提唱したライリーさんは、決して自分の出世の手段にこの運動利用しようとか、カナダや日本のビルダーに恩を売って一儲けをしょうなどという発想が一切なかった。(周りには良からぬことを考える日本人の建築家もいたが・・・)
また、カナダの消費者に、補助金というニンジンをぶら下げて関心を惹き、アメとムチで引っ叩こうという発想もなかった。
省エネというのは、国家とか政府のためにやるものではない。 R-2000住宅という本物の住宅は、必ず消費者のためになる。 たしかに初期投資の負担は大きい。 しかし、それを我慢して、R-2000住宅という壁を乗り越えれば、健康で快適な生活が得られる。 長い目でみれば大きな利益になる。
「さあ、皆さん。一緒に乗り越えましょうよ」。

カナダのCANMETエネルギー技術センターのスタッフは、「消費者のために役立ちたい」 という信念で研究に取り組んでいた。 これに対して、日本の大学や建研などの研究者には、「消費者のためになろう」 という発想は薄かった。 人がやっていないテーマを拾いだして論文を書くか、研究の補助金を得ることが どちらかというと目的の場合が多い。
何としてでもR-2000住宅事業を軌道に乗せたいと考えていた日本のビルダーには、日加R&Dワークショップでのカナダ側の研究発表は役に立った。 だが、日本側の発表にはマスターベーション的なものが多く、あまり参考にならなかった。
日本の政府も、役人も、学者先生も、この消費者という肝心な基点が忘れられているのではなかろうか・・・。

私どもは、ライリーさんの、「消費者のために頑張ろう」 という心意気に惚れた。
「難しいけど、やって見ようじゃないか」 と覚悟した。
最初は、断熱サッシにしても断熱材・気密材にしても必要とする資材は揃っておらず、しかもやたらと高い。 とくにサッシには苦労させられた。
大工さんや下職の研修・訓練もスムーズに行かない。 ちょっと目を離すと間違いをやらかす。
現場監督も、営業マンも、最初は「売れるわけがない」 と考えていたから協力的ではない。 
設計は 理屈は分かっているのだが、行動や図面が伴わない。
今 流行の補助金もなければ、公庫の特別融資が付くわけでもない。
お客さんに与えることが出来るのは、「暖房費が1/4になるはず・・・」 という夢だけ。
しかも、坪価格が10万円近くも高くなる。 梅干以上のショッパさを飲みこんで下さいと言うのだから、無茶な話。

しかし、なんとか3〜4年頑張っているうちに、やっと設計も監督も職人も慣れ、断熱サッシや断熱・気密材も各メーカーの協力で安くなり、お手頃価格になってきた。
それと同時に仲間の各社は、不思議にも同じ行動をとり始めた。
それは、「高気密の気密性能の技術を保持するには、いくつかの商品群の一つとしてR-2000住宅を考えてはダメ。 当社が受注する全ての住宅の気密性能をR-2000住宅並みに厳しくしなければ、絶対に技術レベルは守れない」 ということ。
つまり、仕様の違いはいくらでも対応出来る。 しかし、C値だけは0.7cu/uと決めると、全部の現場をそれに揃えないと守れない。 そこで、R-2000住宅の専門業者化に反対するトップ営業マンの首を切ってまでも、R-2000住宅専業ビルダーへの転身を図った。
一社だけではない。全国の十数社が同じ行動をとった。決してライリーさんが強要したのではない。
各社の自発的な行動。 これこそが、R-2000住宅成功の絶対条件だった。
大手がR-2000住宅で成功出来なかったのは、いくつかの商品レパートリーの一つとしてR-2000住宅を捉えていたから。 一つのレパートリーとして捉えても悪くはなかった。ただ、専業チームを作るべきだった。それをやらなかったので、ノウハウを蓄積するチャンスを失った。

これは、何もR-2000住宅に限った話ではない。 Q-1住宅にしても、パッシブハウスにしても、気密性能を問うこれからの全ての住宅システムで 同じことが言える。
それぞれに、価格面での制約条件が多くてなかなか自立心の強い専業業者を誕生させられない。
だからモタモタしているのだが、原因はそれだけではない。
専業業者を育てるには、「消費者のためになろう」 と言うポリシーと実行力が不可欠。
今、大手住宅メーカーの中で、「C値が0.9cu/uを確実に切ります」 と断言出来るのは、一条工務店だけ。  残りの全メーカーは、おそらくムリだろう。
なぜなら、「消費者のためには自分が変わらねばならない」 というポリシーを、どの会社のトップも持とうとしていないから・・・。
そして、肝心の気密性能と断熱性能を意識的に忘却して、ひたすらに「スマート・ハウス」 と9月末のセミのように 情けなく鳴き続けている。 
世界の中で、日本の住宅産業人ほど特異体質の異変種集団も珍しい。
そのポリシーのない鳴き虫を、政府や役人、マスメディアが、「この印籠が目に入らぬか」とばかりに、「スマート・ハウス」の印籠を高く掲げて、懸命に支えている。 
これが本気だとしたら、世界一笑える構図。

数寄屋造.JPG

写真は、かつて日本が世界に誇った典型的な数寄屋造。
私は富山の南砺の生まれ。 周辺の住宅は、故杉山英男先生が指摘された伝統的な大貫工法で、屋敷杉に囲まれた100坪以上の大きな屋敷ばかり。 数寄屋造というわけにはゆかないが、昔は豪雪が多かったために 大黒柱ゆうに1尺2寸はあった。
また、子供の頃は風呂を焚くのは10日に1日程度。 したがって、風呂を焚いた日は、近隣の2〜4家族の全員が「もらい風呂」に集まった。 暖はもっぱらイロリの焚き火。 その煙かったこと。 そして隙間風の寒かったこと・・・。

日本の伝統的数寄屋造の気密性能の悪さを最初に指摘したのは、私の知る範囲では建築家としても名高かった故清水一教授。
「日本の名工と言われる匠が造った数寄屋造でも、冬期は木が乾燥して隙間が出来る。その隙間を寄せ集めると、30センチ角の穴が2つ空いている勘定になる」。
つまり、30cm×30cm×2=1800cu。
仮にこの数寄屋造の大きさが延べ150uだったとしょう。 とすると、この数寄屋造の相当隙間面積は12.0cu/u。 延べ面積が200uと仮定しても9.0cu/uとなる。
見えないように柱にミゾを掘り、糸を埋め込む下細工をして隙間が出ないように土壁を塗った匠の数寄屋造で この有様。 私の故郷の民家の相当隙間面積はおそらく15cu/u以上だったのだろう。 
隙間風の寒さにガタガタ震えたのは当然のこと。 戦前戦後の住宅は、外気温度が−5℃であれば、いくらイロリで火を燃やしたにしても部屋の平均温度も−5℃。 外気との温度差がゼロであったはず。
それほど隙間風は容赦をしない強敵だった。

この隙間風から消費者を救ってくれたのが、東京オリンピック前後から普及したアルミサッシ。
現在では、アルミサッシは熱伝導率が高く、窓から40%以上の熱が損失していることをほとんどの人が知っている。 しかし、そのアルミサッシが窓周辺からの隙間風を大きく遮ってくれたのも事実。 このアルミサッシの普及で、外気温が−5℃の時は、室内の温度は−3〜4℃に改善された。しかし、隙間風が極端に少なくなったので、体感温度は5℃以上も上昇したように感じられた。
そして、現在ではアルミをPVCに替え、ウッドサッシに替えるとともに、ガラスもペアとかトリプルにした方が熱の損失も少なくなるし、あの嫌な窓の結露もなくなることは、人々の常識に。

だが、日本人の気密に関する知識、と言うよりは私の30年前までの気密知識の範囲は、隙間風に関するものから一歩も出ていなかった。
その日本の我々に、換気と気密性の重要さを教えてくれたのがスウェーデン。
札幌のディックス社が、第3種換気の換気システムと気密測定機を持ちこんでくれた。 と同時に、住宅における換気と気密性の重要さを立証する理論的も輸入してくれた。
正直なところ、30年余前までは、北海道の家にパッコン給気口が付いている理由がわからなかった。
「なんで家に穴を空けるの?  なんでわざわざ隙間をつくるの?」

そして、住宅における気密性の重要さと機械による定量換気の重要さを系統的に教えてくれたのは、まぎれもなくR-2000住宅。 カナダ大使館を通じてR-2000住宅が日本に伝えられ、1987年には北海道、東北、北陸でモデルハウスが建てられている。 
と同時に、1.5回転/時・50パスカルという漏気回数という概念も入ってきた。
それまで日本にあったのは、相当隙間面積 (C値) という概念。 これは10パスカルという低い加減圧でu当たりの隙間が何cuあるかを測定するもの。 ともかく、10パスカルという低い圧力で測定したのでは正しい数値が得られず、無意味だということが分かった。
そこで、ディックス社が50パスカルで札幌に現存している各種の住宅の気密性を測定してくれた。
その後は、先進住宅業者では気密測定機を購入し、全ての住宅の気密性能を測定するのが当然のことになったが、25年前のディックス社の気密テストほど注目を集めたものはない。

デックス.jpg

この図を見て驚いたのは、どれ一つとしてR-2000住宅の1.5回/時・50paを突破していないこと。
一番成績の良かったRC造のプレハブで1.6回。 土間床の206で1.8回。
それどころか、3.0回を切っているのは13の試験体のうちたったの5体。38%という低さ。
鉄骨プレハブは5.0回前後。 改良していない木軸は7.0回以上か空気が漏れすぎて測定不能。
先ほど紹介した匠の造った木製建具の数寄屋造が15回で、私の故郷の昔の民家は25回/時・50pa程度ということになる。
このデータから日本の住宅が、気密性能に対していかにノーズロの対策しかやってこなかったかということが痛感させられた。 と同時に、R-2000住宅が求める1.5回/50paが どれほど厳しい数値であるかも痛いほど分かった。

カナダ政府は、その設計マニュアルの中で、おおよそ次のような理由を上げて気密性の必要性を強調していた。それに日本における経験から私見を若干加えたのが下記。
◆第一に上げていたのは、冬期に外壁内、天井内、床内に空気が漏れることによって起こる壁内結露を中心とする結露防止。
この壁内結露は、住宅の耐久性という面からも絶対に防がねばならない。 一つの被害も生じないことを実証して、その最低レベルを厳守してゆかねばならない。
◆第二に上げていたのは、計画換気を確実に行うことにより、エネルギーのムダを省くとともに、家の中から温度差というバリアを追放し、風邪や脳卒中などを追放してゆくこと。
住宅からの空気の流入、流失は、@躯体に隙間がある Aその隙間を境に内外に気圧差がある時に発生する。この気圧差は風と煙突効果という2つの作用とその組み合わせで起こる。とくに風の影響は大きい。風速10メートルの風は、時速40キロのスピードで走っている車と同じ。窓を空けていたらどんなことになるか。 当然、必要以上のエネルギーが失われ、室内の上下の温度差と室間の温度差 (温度のバリア) が拡大して、風邪や脳卒中の原因になる。
◆第三には、スギ花粉症の多い日本では、隙間からの花粉の侵入は大都市の30%に近い人々に苦痛を与える。また、道路沿いの家々の排気ガス対策という面からも、気密性の確保が求められている。
◆第四は、大都市や幹線道路沿い、さらには空軍基地近い住宅の騒音対策として、消費者は高い気密性能を求めている。
◆第五は、冬期の過乾燥と夏期の過剰湿度対策の根源として、気密性こそが住宅性能のトップ性能として注目されてきつつあるという事実。つまり、湿度コントロールが出来ない住宅は、日本では次世代に通用しない住宅になろうとしている。

ご案内のように、2年前の省エネ基準の改定から「気密性能」の文字が一切消えた。 その理由が説明されていない。 最近のジャーナリストもダラシない。本気で追求していない。 新建ジャーナル紙に掲載されたS氏の意見は、カナダやスウェーデンが懸念する壁内結露という大問題にも、また温度差によるバリアの大命題にも触れてはいなかった。
政府や役人、大手住宅メーカーは消費者のことを考えず、自分たちの都合を一方的に押しつけるのが習性であり、体質。

だが、学識経験者は、5点の全てではなくてもよい。 せめて壁内結露問題と温度差によるバリアの危険に対しては、裏付けとなる正確なデータだけは用意する義務があるのでは・・・・・・これは、原発村の存在が、原発の危険性の実態を長く消費者に隠蔽していて大問題を発生させ、一大不信感を醸成させたことが教訓に!!
住宅村は率先して、気密性の実態データを日本の消費者に報告する義務があると思うのだが、如何・・・。




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