2012年12月27日

2012年上半期 読んで面白かった本ベスト10 (下)


本来だとこの稿は30日に掲載する予定。
しかし、ほとんどの事業所は28日までだと思う。もし本を買われるなら なるべく早く掲載した方がお役に立つ可能が…。 ということで、今回に限り3日早く掲載することにしました。

先週上げた102冊の中から選抜した ベスト10候補作品の■印が48冊。
その中から、勝手に選んだ独善的ベスト10が以下。
いつものことながら写真の写りが悪いのは、ご容赦あれ。

◆10位

ナンイデイ.JPG

かたつむり写真.JPG

企業小説ではなく、「社会派小説」とでも言うべき中から2つ。
「ナインデイズ」 は、「岩手県災害対策本部の闘い」という副題がついているように3.11から9日間の災害対策本部の内幕を見事に描きだした好著。 と言うと これは小説ではなく、県の役人が書いた堅苦しいノンフェクションではないかと考えられがち。 そうではなく、3.11という悲惨な舞台を背景に奮闘した 秋富という救急医の物語。 自費でアメリカ、イギリスのレスキューの実践トレーニングを受けて資格を取り、救急医でありながら県庁の災害対策本部へ潜り込んで、全幅の信頼を得て大活躍した異色作品。(10月12日付、独善的書評364号参照)

「上海、かたつむりの家」は、12月20日のこの欄で紹介済み。残念ながら小説としてイマイチ。上海の住宅事情の掘り下げも不足。そして、後進国のワイロ体質から考えて上海の上級官僚の悪質ぶりも想定内。 だか、一応読んでおくだけの話題性が…。

◆9位

移民の宴.JPG

この作者は、アジアやアフリカなどを旅行して、多くの旅行記を発表している。
そして面白かったのは7年前に出版された「アジア新聞 屋台村」(2011/4/13、週評338号参照)。
今回は、講談社系の月刊誌に12回に亘って、日本へ移民したタイ、イラン、パキスタン、フィリピン、フランス、中国、イスラエル、ブラジル、インド、韓国、スーダンからの、移民者の食生活を取り上げている。 しかし、故国の食事を主とするか、日本化されたものを好むかは個人によって大きな差がある。 そこで各国のコミュニティを訪ね、どのような生活習慣を維持し、どのような平均的な食生活を続けているかをリポートしたもの。 取材中に、3.11事件にぶつかり、多くの移民は故国の家族などからワイノワイノの催促で やむなく帰国。取材が出来ない時もあった。
その中にあって、南三陸に住む15人のフィリピン妻たちのコミュニティは見事。 1人は残念ながら行方不明になったが、誰一人として帰国しなかった。 彼女等は日本やフィリピンよりも、南三陸を故郷として親しみ、愛しているから…。

◆8位 

表紙写真.JPG

この本については、9月5日のこの欄で紹介しているので省略する。(カテゴリの《書評(その他)》から入られたし)
今回は、このブログ欄で取り上げた本でベスト10入りをしたものが、なんと7冊にも及ぶ。それだけ、この欄で紹介する書籍のレベルが、向上した証と言えるのだろうが…。 

この「ザ・ラストバンカー」は、文字通りバンカーのトップとして、その伝記を後世に残す価値ある最後のものになる可能性が高い。 業績不振と社会的な名誉棄損事件。さらにリストラに次ぐリストラの時代を ブレなく生き抜いた貴重なバンカーマンの記録。

◆7位

渚の著書.JPG

これは8月10日に、この欄で紹介済み。
宇宙旅行に行ける人間は、当初は軍人と技術者に限られていた。
日本人の医師として最初に宇宙を経験したのが古川聡氏。 無重力の宇宙から帰還した暫くの間は自分の身体の芯がどこにあるか分からず、フニャフニャの軟体動物化した生々しい体験報告が「宇宙へ出張してきます」(毎日新聞刊) に掲載されている。これほど納得させられた話はない。
そうした医師としての体験談以外に、古川氏は数々の科学的の成果も上げている。 なかでも、地上400キロメートルの世界で、ハイビジョンカメラが捉えた様々な現象の初めての謎解きに参加。 
想い出す度に、今でもワクワクさせられ謎解き。

◆6位 

4093882487[1].jpg

この著作も、9月25日のこの欄で紹介している。
世の中には、発見と発明がある。 今年ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥氏が、皮膚細胞からips 細胞を生成する技術を解明したのが発見。 この発見に基づき、これから ips 細胞を医療の現場で実用化して人々に供して行くのが発明。 
産業界に身を置く人間として必要な能力は、イノベーション力である発明力。 例えばデシカを どのようにして家庭で使いこなしてゆくか という現場での発明力が大きくものを言う。
この著者の塚本氏は、ダチョウの生命力の強さに気付き、偶然にもその卵から大量の抗体が安く作れることを発見した。 それだけではなく、苦心して作った抗体を使ったインフルエンザ用マスクだけでなく、アトピー対策用やニキビ対策用の化粧品など、様々な商品を発明している。 
発見から発明までのベンチャー。 だからこの本はやたらに面白く、身体の芯まで燃えてくる。

◆5位

魁夷の表紙.jpg

この本は、上記のダチョウに続いて9月30日に紹介済み。
東山魁夷のドイツとオーストリアのスケッチ旅行を追い、それぞれの作品がどの位置と どのアングルから捉えた風景かを探ることを目的にした旅行記。 前例を見ない著作。
たまたま4年前に、パッシブハウスの現状を調査するためにドイツとオーストリアを訪れた。
絵心がないので魁夷のようなスケッチは残せなかったが、魁夷の絵をはるかに上回る素晴らしい街並みや美しい住宅の写真は腐るほど撮ってきた。 したがって、魁夷にもう少し建築や住宅の知識があったなら、もっと素晴らしい作品が残せただろうと惜しまれる。
しかし、この本は建築的に見ても面白くて価値がある。 

◆4位 

リベンジ.JPG

ランウェイ.JPG

ロスジェネ.JPG

待合室.JPG

下半期には、私が好きな4人の作家の企業小説がそろい踏み。 そこで、企業小説4点をまとめて4位とした。 
まず、江上剛の「リベンジ・ホテル」。 主人公々今までのようなベテランの経済人ではない。 主役は東京の2.5流大学を卒業した社会人一年生。卒業はしたけど極端な就職氷河期。200社ぐらい応募したが内定は一つもなし。やっと郊外のちっぽけなホテルに就職が決まったが、入社式もなし。最近数年間に新卒を採用したことのない斜陽企業。救いは年老いた社長に変わって若い孫娘が社長に就任したこと。 新人ながら宿泊客のため渾身のサービスに勤め、ニーズを取り上げて女子のランチ会を計画したり、空いている宴会場を地元の同好会に貸したりしているうちに、地元の支援を得て最大の難局を突破するヒヨコ企業家の物語。気負いもなく、淡々と読ませてくれるのがよい。

幸田真音の「ランウェイ」。 この物語の主人公は女性。ファッション業界のバイヤーの世界に飛び込んだ。だが、元々は男の世界だっただけに一刻の平穏も訪れない。 妬みや陰謀が渦巻いている。 しかし、ミラノ、パリ、ニューヨークなどを訪れているうちに、次第に実力を付けてくる。 だが、ファッション界の執拗な女性の争い耐えられず、アメリカに渡って細々と仕事を始める。そして、バイヤーの世界ではなく、女性衣装のデザイン開発の分野に活路を拓いてゆく。
華やかなファッション産業界の舞台裏を眺めながら、女性企業家の成長が楽しめる好著。

池井戸潤の「ロスジェネの逆襲」。 親会社の東京中央銀行の子会社のセントラル証券は、鳴かず飛ばず。誰もが早く銀行へ戻りたいと画策を始めて足の引っ張り合いばかり。 そんなセントラル証券に、IT関連の電脳社の社長から ライバル社の買収話が持ちかけられる。久しぶりの儲け話に会社は沸き立つ。ところが、いつの間にか親会社の銀行が、その仕事の横取りを画策していることが発覚。主人公の半沢部長はロスジェネの若い部下と組んで、なぜ電脳社が最初にセントラルへ話を持ちこんだのかという裏を探って行く。そして、電脳社の陰謀を暴き、銀行とライバル社を助ける。「客のためではなく、自分のために仕事をすると 人と組織が腐る」ことを実証する小説。

江波戸哲夫の「定年待合室」。 妻のガンを知って大手百貨店を早期退職した主人公。妻に先立たれて生きる望みを失った。 その時、行きつけの安バーのママさんから、今までの経験を活かして、「お世話人」「解決人」になったら、と言われて目覚める。さっそく、「百貨店から大口の記念品の注文があったのがキャンセルになった。なんとかならないか」との相談が持ち込まれた。今まで構築したいろんなツテを辿ってゆくと、解決の方法が見つかった。そのほかに、自動車販売店から売上回収の相談。売れ残りマンションの処分。買物難民が困窮している難問を、定年退職のグループが次々に解決してゆく。少し話が甘すぎるとは思うが、元気がもらえる著。

◆3位

あの日建築.JPG

宣言しているように、私が日本で一番尊敬している建築家は伊東豊雄氏と隈研吾氏。
とくに3.11以降の伊東氏の行動は、尊敬に値する。
「建築家は今のままで良いのか。 建築家に何が出来るのか」 という大テーマを掲げて東北の各地を訪れ、避難所や仮設住宅はもとより、公聴会で真剣に本音を探る行動を続けた唯一の建築家。
この著書では、氏がアドバイザーとして釜石市に提案した斜面地型集合住宅や、中央にコミュニティ広場を持った合掌造型の集合住宅が紹介されている。 平地が少なく、急峻な山が迫っている釜石には、大都市型の集合住宅は相応しくない。
さらに、仙台・宮城野区と釜石・平田地区での「みんなの家」の建築実例。さらには、ヴェネチア国際建築展と同時進行で金獅子賞をとった陸前高田の「みんなの家」や、仮想商店街、ラグビースタジアム構想など、具体的な提案がなされている。
一方、戦後のデモクラシー時代には建築家と社会との融和があったが、最近は社会から建築家が期待されない存在になってきている。その背景の分析もしっかり行っていて、納得させられる。
それと、氏が昨年5月に開校して力を入れている伊東建築塾。 土曜日に各界の講師からレクチュアーを受ける講座A。 専門家対象の講座B。 小学校高学年を対象にした講座C。
いずれも頭でっかちな人間を育てるのではなく、東北の被災地や今治のアートミュージアムでの現場実践を踏まえた上での人づくりの実態報告。
全体の完成度はまだまだ低いが、氏の意欲には圧倒される。

◆2位
 
震える学校.JPG

これも、11月25日に紹介している。
この本を読むまでは、インターネットや携帯電話の普及が、これほどまで子供たちの人間関係、信頼関係を破壊しているとは知らなかった。
たしかに、大人の社会でも2チャンネルとか各社の書き込み欄を見ると、匿名を良いことにして悪口の書き放題が目に付く。 そんな欄を見ているとヘドが出るので私はなるべく避けている。
たしかに、私も国交省や大手プレハブメーカーの悪口を何回も書いている。
しかし、あくまでも名前を出しての悪口。 匿名での言いたい放題、書きたい放題ではない。
悪口を書けば、その分返り血が身に降りかかってくる。それを覚悟しての年配者の戯言にすぎないが、それなりに勇気を持たないと出来ない発言。 本来、発言とはかくあるべき。

ところが、匿名だと自制心が失われ、何を書いても咎められないのでエスカレートする。
しかし、2チャンネルなどで匿名のターゲットになるのは著名人か企業。
ある程度は、「有名税」 と言うことで我慢すべきかもしれない。
ところが、子供のネットや携帯の匿名の対象になるのは、あくまでも仲間であり、時には先生がターゲットに。
面と向かっては何も言わないが、匿名だとあることないこと、好き勝手なことが書き込める。
そして、発言に対しては一切責任が問われない。
このため、子供たちは、いくら親しい仲間であっても決して本音は晒さないと言う。どんなに親しげに振舞っていても、うっかり本音を言うと、何時書きこまれるかわかったものではない。
このため、人と人、心と心の繋がりを子供たちは結べなくなってきているという。
そんな、恐ろしい実態を知らせてくれた貴重な書。

◆1位 

巨大地震.JPG

今回は、文句なくこの著作をトップとしたい。
3.11で、日本国民からの信頼を完全に落としたものの代表が原子力関係の学者先生。
ついで危機対応力が全く欠けていた政治家と経済産業省のお役人、東京電力の幹部がある。 かつての銀行と一緒で、誰も彼らの言うことを信用しなくなった。
それと、もう一つ忘れてはならないものに東大を中心とする地震学会の信用失墜がある。
地震は予測出来るという仮定のもとに、厖大な国費を湯水のように使ってきた。
明日にでも起こる確率が高いと喧伝された東南海地震。 その発生は完全に予測出来ると断言。
学界の権威が集まって会議を開き、総理大臣を中心とする緊急対策会議が開かれ、事前に対策がとられ、被害は最小限に抑えられる。この平成のイソップ物語を愚かにも信じさせられてきた。
ところが、権威があるはずの地震学会は、震度7の直下型の阪神淡路大震災や中越地震に対しては、何一つ予知出来なかった。
そして、マグネチュード9.0という未曽有の3.11に対して、学会は全く無能のデクノボウ。
「こんな地震学会など いらない!!」 多くの国民が腹の底で叫んだ。 それに、原発立地に対する甘すぎた過去の意見具申に対する怒り。ついでに国交省べったりの建築学会に対する怒り。

その中にあって、阪神淡路、中越地震を予測しただけでなく、07年の太平洋学術会議で、古川雅英、小川進氏とともに「2010年頃までに、M8以上の巨大地震が東北太平洋沖で起こる可能性が非常に高い」と問題を提起したのが筆者。実際の発生は筆者の指摘から3ヶ月遅れだったが、政府がこの提起を真剣に取り上げていたら、被害は半分以下で済んでいたであろう。
氏の5段階に及ぶ地震予知の方法には説得力がある。 そして、日本列島の何ヶ所かでの巨大地震の発生を予言している。 私はどこまでも素人。しかし地震予知で、これほどまで具体的で、かつ説得力を持った著書に出会ったのは初めて。 一読の価値があると断言したい。


















posted by uno at 04:50| Comment(0) | 半年間の面白本ベスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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